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 これからの時代は包容力なんです。ほうようりょく。しかしオレはこの短い単語すら流暢に喋れず、一度口に出しただけじゃ栄口は理解してくれなかった。
「オーリョーリョク?」
「ホウヨウリョク!」
 はいはい、包容力ねと、ようやく栄口は頷き、新しい中華料理かと思ったと笑う。オレの一大決心をホイコーローやチンジャオロースのたぐいと一緒にしないでいただきたい。
 それがどうしたって、オレは知ったのである。彼氏に求められているのは包容力だって。
「水谷また変なテレビ見たんだろ」
「違います、昨日出た雑誌です」
「ちょっと影響されすぎなんじゃない」
 んなことはどうでもいい。栄口の苦言を掻き消すようにオレは両手を大きく広げ、胸をぐぐっと張って「どーぞ!」と言ってみた。
「……お前なにやってんの?」
「包容力!」
「はぁ」
「さかえぐち! 何か辛いことがあったら……」
「へ?」
「オレの胸に飛び込んでおいでよ!」
 栄口の口元が笑っているのか引き攣っているのか正直判断しかねるが、眉間は微妙に波を打って歪んでいた。
 えー、ちょっと待ってよ、オレなんかすごいカッコ悪いじゃないですか。今のセリフだって結構考えて言ったつもりだったのに超空振った手応えがするんですけど。
「水谷」
「ハイ」
「ボタンいっこずれてる」
「……マジっすか」
「うん」
 視線を虚空から胸元へ下ろし、ボタンをひとつひとつ目で確かめたら、シャツの端の長さが確かに違っていた。手のひらを蛍光灯に透かんばかりに上げていた腕を小さくたたみ、ちまちまとボタンを掛け直すオレはひどく滑稽だ。
 別にボタンとかどうでもいいんで、栄口、少しだけでもオレの腕の中で「水谷大好き」とか言ってみませんか、みませんね、そうですね。
「あ、そうそう、水谷が食いたいって言ってたチョコ買ってみたよ」
「えー! ほんと!?」
 昼休みコンビニ行ったらあったから、と栄口が小さな紙箱を机へ出す。確かに食べてみたいって喋ってたやつだ。オレの言った些細なことを覚えてくれていたのが超うれしい。
 しかし小分けにされた茶色い袋からチョコレートを出そうとしたとき、はっと気づいた。
「包容力!」
 先にチョコレートを口に含んだ栄口はオレへ目を向け、そういえばさっき水谷そんなこと言ってたなーみたいな感じにもぐもぐと口を動かす。
「食べないの? 結構うまいよコレ」
「ちょっと栄口さぁ、オレを甘やかさないでくんない?」
「なんで」
「包容力が発揮できないんだよぉ」
 へぇ、と栄口は少し理解したような声を出す。オレはオレでチョコレートを出そうとギザギザへ懸命に力を入れているのに、なかなか頑丈な小袋は伸びて歪むばかりだ。
 やっと開いたと思ったら、今まで入れていた力の反動で四角いチョコレートは失速寸前なフリスビーのように回転し、部室の汚れた床へ落ちた。
「「あー」」
 残念なチョコレートへふたりの声が重なる。なんともったいないことだろう。
「開かないなら言えよ、開けてやるからさぁ」
「う、すんません……」
 栄口はチョコレートが入った箱から同じ小袋をひとつ取り出し、器用な指づかいでつるりと封を切ってみせた。ほら、とオレへ手渡しされようにも一向に納得がいかない。
「あ、甘やかすなって言ってんじゃん!」
「だってオレ、甘えるより甘やかすほうが好きだし」
 開き直った様子でそんなことを言うので、チョコレートの甘さがカラカラに乾いた喉に引っ付く。オレは誰かを甘やかすよりは誰かに甘えるほうが好きだ。末っ子だし、母さんも姉ちゃんもいるし、そっちのほうが慣れている。というか果たして今までオレは誰かを甘やかすなんてことあっただろうか。多分ない、経験上一切記憶にございません。
「で、水谷は多分オレとは逆だろ?」
「ええっ」
「だからいいじゃん」
「よくない! 全然よくないから!」
 そんなこんなで栄口はたとえ付き合ったとしてもなかなかの強敵だった。