ユキナ・リュカ ~この世界~
ルックにしてみれば、今は触らぬ神にたたりなし的な気持ちだった。
ルックはすっと手を上げ詠唱を始める。風が湧きおこり、ナッシュを包んだ。
ナッシュの体が浮いた。
そして・・・そのまま崖下に放り出された。
「「へ?」」
またもやユキナとナッシュの声がかぶる。
そしてその後、この森にドップラー効果のような悲鳴が響いた。
「・・・わぉ。」
「・・・って、ルック、何したんだよ?」
ポカンとしているリュカ。ユキナはハッと我に返りルックに聞いた。
「・・・ちょっと・・・詠唱間違えた・・・。でもまあ、落ちはしたけど街には着く。」
「めずらしいね?」
リュカが言う。
「・・・眠かった・・・。」
そういう問題か・・・?ユキナは思ったがあえて口にしなかった。
とりあえず無事城にまずは戻りたいところである。リュカの先ほどの様子も気にはなるが・・・。
それにしても運のない人だったな。フリックやこのルックと比べたらどうなんだろね・・・。
ルックにはしっかり目を覚ましてもらって、三人は無事城にもどってきた。
ユキナはしっかりシュウにつかまったが、時間が時間なために、説教はどうやら明日に持ち越しのようである。
ルックは、もう勘弁、と逃げるように消えて行った。
「あの・・・マクドールさん。」
「うん?」
「とりあえずは、ありがとうございました。」
もう寝るよ、じゃあね、と言って去ろうとしたリュカに、では部屋まで送らせて下さい、とついてきたあと、ユキナはリュカにあてがっている部屋のドアの前で言った。
「ああ、いや、気にしないで。」
「ありがとうございます。それと・・・ちょっと聞きたい事が少し。」
「・・・もう遅いよ?明日じゃだめなの?」
「マクドールさんがしんどいなら明日にします。でももし少しの時間、いただけるなら・・・。」
「いいよ、分かった。じゃあ、どうぞ?」
リュカはドアを開け、ユキナを中に勧めた。
「はい。」
リュカはとりあえず椅子をすすめてお茶を用意した。
「ありがとうございます。」
「ううん。で、聞きたい事って・・・あ、その前に。ユキくん、足、どうしたの?」
「え?ああ、ちょっとビッキーがやらかした時にやっちゃったみたいで。もうだいぶマシなんですけどね。あ、ちなみに先ほどの人、ナッシュて言うんですが、彼が俺を抱えてたんは、逃げる時に俺の足を思ってですよ。」
「・・・ああ、なるほど。・・・それにしたってお姫様だっこ、とはね。」
「ああ、まぁそうなんですが・・・俺が知りたい事の一つもそこらへんなんですよね。」
リュカはん?と首をかしげた。
「マクドールさん、何を怒ってたんです?」
「えっ!?・・・怒ってないけど?」
リュカが思いもよらない事を、とびっくりしたように言った。
「いえ。間違いなく、機嫌、悪かったですよね?俺、何かしました?勝手に一人で行動したからですか?」
「え、だから怒ってないって。まあ一人で行動した事は確かにやめて欲しいけど。」
リュカは居心地悪げにモゾっと身動きしながら言った。それらの様子を見ていたユキナが、確信したように言った。
「あの・・・もしかして、実はヤキモチ、やいたとか?」
「なっ、違う。そんなんじゃない!!」
リュカはガタン、と立ち上がり、勢いよく否定した。
ユキナは座ったままゆっくりと続ける。
「・・・まあ、いいですけどね。俺は勝手にそうとらえさせてもらいますよ。足、くじいてて良かったですね。」
「勝手にって・・・てゆうかなんで?」
「俺、今足、くじいてなかったらすぐさま立ち上がったマクドールさんを抱きしめてキスしてたからですよ。」
「・・・!!」
リュカは真っ赤になって何も言えないまま、ペタン、と座っていた椅子にまた座った。
ユキナはそんなリュカをにっこりと見つめたまま言った。
「もう一つ、聞きたい事が。」
「・・・何・・・」
「なぜ俺に黙ってご自分の家に帰るんです?」
「・・・ああ。最初はユキくんを探してたんだよ。そこに軍師殿に会ったんで帰るのを君に伝えようとしてるって言ったら、君は忙しいのもあるし、僕はそれに気を使わないでいいように、これからは軍師殿に報告するだけでいいって言われたから。」
やっぱり・・・あのクソハゲめ・・・ユキナはあらぬ方向を冷めた目でジロッとみながら思った。
「俺には伝わってなかったんですよね、だからこれからは是非俺に言って欲しいです。気なんて使わないで。ちなみに・・・グレミオさんて・・・?」
「グレミオ?僕の家族みたいなもんだよ。ずっと昔からうちにいてくれて、まるで母のいない僕の母みたいなもの。なんで?」
母・・・。
それを聞いてユキナは一瞬で会ったこともないグレミオに対する警戒がまったくなくなり、好意的な気持ちでいっぱいになった。
「いえ、誰なのかなって思っただけですよ。今度、是非俺にも紹介、して下さいね。」
「え?ああ、そっか会った事なかったっけ。うん、じゃあ今度ね。それから、今後は君に言うようにするよ。今回みたいな羽目にならないようにも。」
「はい。」
ユキナはニッコリとして言った。
「あと・・・最後にも一つ、お願いが・・・」
「?何?」
「ちょっと、俺足怪我してるし、こっち、来てもらっていいですか?」
ユキナは手招きをした。
リュカは首をかしげてから立ち上がり、向かいに座っているユキナのほうに近づいた。
とたん、ぐっと手をつかまれてひっぱられ、その勢いでバランスをくずし、リュカはユキナの上に座る形になってしまった。
「ちょっ、何す・・・」
「黙って・・・」
抗議し、降りようとするリュカをギュッと抱きしめて、ユキナは耳元で囁いた。
そして片方の手をリュカの後頭部にそえ、びっくりしているリュカに顔を近づけたかと思うとそのまま口づけた。
「っんっ!!」
リュカは身動ぎし逃げようとするがしっかり抱き込まれて降りられない。
だがそんな自らも力が抜けた。グッと閉じていた唇も、優しい愛撫により、力が抜けてきた。
そうして、おずおずと手をユキナの背中にまわす。
ユキナはそんなリュカが愛おしくて、さらに優しく口づけを続けた。
しばらくそうやってキスを続けてから、ユキナは最後に名残惜しそうにリュカの唇を舐めてから顔をはなした。
「・・・な・・・ぜ・・・」
「案外素直じゃない英雄さん。俺にはお見通しですよ、少し前から。俺はそんなあなたも大好きですしね、あなたが色々と考える事でもあって、そうしたいなら・・・、と思ってましたが、でもやっぱり出来たらこうやって気持ちを表現しあえる仲の方が嬉しいのでね、もう構わずやっちゃいました。ちなみに紋章が云々って事は聞きたくないですよ?前にも何度か言ってますがね。」
「・・・。」
「・・・嫌でした?それなら正直にそう言って下さい。」
相変わらずひざ上で抱きしめられたまま、ユキナは囁くように聞いた。
「・・・い、や・・・・・・じゃ、ない・・・。」
リュカは真っ赤になりながら、かろうじてそう答える。
ユキナは最上の笑みを浮かべてそんなリュカを見つめ、嬉しいです、ありがとう、と言った。
作品名:ユキナ・リュカ ~この世界~ 作家名:かなみ