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ユキナ・リュカ ~この世界~

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戯れ事



「やあ、おはよう、ルック。」

リュカはまだ朝も早いうちから目が覚めたのでそのまま散歩し、戻ってきてホールを通りかかったところだった。そこでいつも立っているルックに目を留め、声をかけた。

「ああ。」
「今回はいたく石板がお気に入りなんだね。前の時は年寄り連中らに占領されてふらふらしてなかったか?」
「人聞きの悪い言い方しないでくれる?まあね、前の時は別に石板から離れてても問題はなかったしね。」

ムッとしたようにリュカを見ながらルックはため息をつきつつ言った。
それを聞いて首をかしげるリュカ。

「?今は問題でもあるの?」
「まあね。」
「どんな?」
「・・・今は軍主自体がおバカだからね。おちおち油断もしてられないよ。」
「彼?彼が何かするの?」

ますます不思議そうな顔をしてリュカは聞く。
あまり言いたくなさそうなルックだったがまたため息をついた後、口を開いた。

「・・・この間は誰かの誕生日とやらで、そいつの名前のところにペンで花丸マークをした後、石板自体をキラキラしたモールやらなんやらで飾り付けられた。」
「ブッ」

思わず噴き出したリュカをジロリと見てルックが言った。

「笑ってるんじゃないよ。まったく、考えられないよ。レックナート様からいただいたありがたいものだって言ってるのによくまぁやってくれるよ。」
「まあね、確かにびっくりするね。・・・あの子って、おもしろいね。」
「おもしろくもなんともないね。」

ルックはさもつまらない、といった感じでフイ、と顔をそらせた。
リュカはフフ、と笑いながら、じゃあがんばって、と手を振ってそこから離れた。

ユキナって、なんとも不思議な少年だ。
大人っぽいと思いきや、子供みたいな事をする。どれが本当の彼なのか・・・いや、多分どれも本当なんだろう。
それが彼の処世術なんだろう、と思いながらあてがってもらっている部屋に戻った。

「部屋・・・別にいらないんだけどな・・・」

自分としては手助けがいる時に誘いにきてくれれば、と思っていた。あの後もユキナにはそう言ったが、是非、となかば強引に部屋をあてがわれたようなものである。
そろそろ朝食でも、と思っていると、ノックが聞こえた。

「はい?」
「ユキナですー、マクドールさん、起きてますか?」

起きているから返事したんだろうに、と笑いながらドアを開けた。

「おはよう、起きてるよ。なに?」
「おはようございます。よかったらご一緒に朝食でもと思って。」

満面の笑みのユキナがそこにいた。

「ああ・・・うん、そうだね、じゃあ。」
「ほんとに?やったあ、では行きましょう。」

リュカが同意すると、また子犬のようにとても喜んでリュカの手をひっぱった。
大人しくついていくが、いつまでたっても手を離さないので、リュカはまたその手を振りほどいた。
またもや残念そうに振りほどかれた手を見ていたが、ユキナは相変わらずにこやかにリュカに話しかけ続けた。
食堂につくと、ちょうど店を出ようとしているルックに出会った。

「ルックも朝食だったのか。さすがにその時は離れるんだ。」

リュカがそう言うとルックはジロリとリュカを見た。

「僕をなんだと思ってる訳?当たり前だろ。」

そう言ってそのまま石板へと戻っていった。

「ルックの奴、リュカさんにあんな口きくなんてー。」
「いや、別にかまわない。ああいう風だって知ってるし。」

憤慨しているユキナに、リュカは苦笑しながら言葉を返した。
ちょうど2人が食事を終える頃、それこそ大憤慨したようなルックがやってきた。

「ユキナ!!」
「なにー?」

すごい剣幕で名前を呼んだルックに対して、ユキナはそれはそれはのんきに返事をする。

「君、あれほど言ったのにまたやったね!?」
「何が・・・ああ。あれね、あは、別にいいじゃん。そうなったらいいなぁって思っただけだろ。」
「ふざけるな、このおバカ!!」

今にも切り裂きをくらわしそうな勢いに、リュカが慌てて声をかける。

「ちょっと、ルック、落ち着いて。ここで紋章でも出そうもんならひどい被害が出るでしょ。何があったの?」
「っこのおバカがまたっ!!ほんとに何考えてる訳!?」

その周辺にいた人々が早々に避難しているところを見ると、こういう光景も珍しいものではないのか、と思いつつ、リュカは言った。

「まあとりあえずちょっと落ち着け。またって何?・・・ああ、もしかして石板・・・?」
「そうだよ!!まったくほんとにっ!!」

あのルックがこうやって感情をあらわにするとは珍しい、とリュカは見当違いの事をふと思ってしまった。

「えーなんでだめなのさ。いいじゃん別に。」
「!!!」

このままだとこの部屋ともども自分も危ないと思い、リュカはルックに言った。

「ちょっと、ほんとに落ち着け。よく分からないし、ちょっと石板、見せてくれる?」
「っああ、いいよっ。このバカがした事、見たらいいさ。」

そう言うと、いつもなら面倒がってなかなか使ってくれない移動魔法をルックは使った。
次の瞬間には3人とも例の石板前にいた。
リュカはどれ、と石板を見る。

一見いたって変わりはなさそうだけど・・・

そして気づいた。
ペンで落書きがされている。
いや、落書きというか、名前がかかれていた。

・・・自分の。

「リュカ・マクドール」
「ブッ」
「笑い事じゃないよっ。ほんと何考えてんのさっ。」
「だってさあ、仲間みたいなもんだし、そうだったらいいなーって思って。なんだよ、いいじゃん。彫ってる訳じゃないんだし。」
「・・・これは特殊な石なんだ。彫れる訳がないだろう?」
「あ、やっぱりぃ?おかしいなって思ったんだよね。」
「・・・てことは彫ろうとしたって事だろ!?」
「・・・えへ?」
「コロス」

その瞬間切り裂きがさく裂する。
とはいっても腐っても天魁星。ユキナもついでにリュカもなんなく避ける。

「なんだよ、ルックのバーカバーカ、偏屈ー。ベーだ。あ、リュカさん、また後でーっ」

そう言うとユキナはあっというまに去っていった。
えらく早いなと思っているとふと後ろに殺気を感じた。

「・・・これはどういう事だ・・・?」

そこには青筋をたて、怒りに体を震わせた軍師がたっていた。

「おっと・・・」

確かに怒りたくもなるだろう。その場は切り裂きのせいでひどい有様であった。
しかしよくまあリュカよりも早くこのシュウの殺気に気づいたものである。思わずリュカは変な感心をしてしまった。
ちなみに書かれたマクドールの字はどうやら油性ペンで書かれていたらしく、後でルックがかなりブツブツといいながら必死になって消そうとしているのをリュカは見かけた。