Dear X!
やあ!親愛なるマイファミリー!どうもドン・ボンゴレ(元)沢田綱吉です。ん?ああ(元)なのはボンゴレ解体作業ほぼ完了したから。はははうんありがとう!でもこの肩書きリボーンにばれたらボコられるからナイショだよ、あ、ごめん解体話は今度ゆっくりでもいいかな。うんほんとごめん、ごめんついでにわるいけど近況報告してもOK?
知り合いの息子に、たった今押し倒されました。いえ、押し倒されてます現在進行形。たぶん、性的意味で。
マフィアというのは業が深い。それはもう言うまでもなく、深い。
しかし、人間。やる気さえあればマフィアのあれこれさえ消化する胃袋を持てるらしい。
沢田綱吉がそのアイアンストマックを死ぬ気弾無しに獲得したのは30を越えてであり、後数年すれば半世紀という年齢になってようやく、消化作業終了のゴングを鳴らすことができた。
彼の左手薬指に指輪はない。それをさみしいと表現するべきなのか沢田にはわからない。わかっていることは今後の展開だ。これから自分は凝り固まった心身を優しくほぐしてくれる余生の日々に包まれる予定、そう鼻歌を歌った。鼻歌は執務室にいつまでも響いただろう。
雲雀恭弥に生き写しの、彼の御令息に押し倒されなければ。
崖を覗き込むような思いで雲雀恭弥の坊を見つめる沢田の頭は錯乱していた。沢田の目前にいる男、二十代半ばの男。名前がどうしても思い出せない。背格好、性格すら父親に似通っているこの男から雲雀恭弥以外の名を引き出すことは困難であった。だから呼び掛けることさえできない。ヒバリさんと呼べば、余計思い出すのは彼ではない。そもそも彼は、雲雀の腹心草壁の籍に入った、ような気さえする。細々としたシナプスの道をたどるがとうとう行き止まりになる。覚えていない。彼の生い立ちすら曖昧だ。
恋人か情人か。雲雀恭弥の子を孕み産み落とした女傑は、どのような方だったのか。沢田は一切を知らない。いつの間にか小鳥の他に動物が増えていて、その動物が人の赤子であったときの衝撃から比べれば、誰だろうとどうだってよくなる。雲雀に婚姻経験は一切なく、相手はどうやら生きてはいるというから、まあそういうことだろうかと無難に推測するだけだ。
それでも一匹狼が子連れ狼になった日は鮮明だったから、覚えている。
雲雀恭弥でも赤子を危なげ無く抱っこ出来るのかと、そう、覚えている。
「ちょ、や、ねえっ君…」
声に出した制止に、自分の心臓こそ止まりそうになる。なんて弱々しい声を、こんなに簡単に!
部下の訃報も裏切りも全部目を伏せることで振り切ってきた自分が。体が細切れにされるような拷問の予感にさえ、笑みを崩すことはもうないというのに。
どうして今さらこんな、声が出てくる。
今さら貞操の危機なんて、何の罠だ。地獄か。
けれど、地獄絵図というには、大変残念なことに、目の前の男はキレイすぎた。