Dear X!
なぜ、好きになったのかと聞かれれば、ムカついたから、というよりない。
彼はいつも僕にあの男を見て、僕を見ない。
それだけだったら、別に、彼だけじゃない。
なのに、好きになったのは。彼だったからとしか、言いようが、ない。
それとも、もしかしたら。
風紀財団とも関係のない医療施設の無菌室。そこから白衣で出てきた雲雀の息子に、お疲れ、とリボーンは声をかけた。
かつて、ボンゴレの世界最先端医療チームへの招きを断った男は眉をあげることで返答に代えた。彼と彼の父親の違いのひとつは、リボーンへの傾倒具合かもしれない。よくここへ入れたね、と淡白に返す。
「どっかの坊がどっかの犯罪組織の最奥に忍び込むよりは、な」
「ハードウェア信仰も程々にした方がいい。それに護ることは耐えることじゃない。攻撃することだよ」
「黒服の兄さん50人を5分で静かにさせる外科医の侵入、なんて」
「想定外?」
「いや、」
リボーンはいっそ穏やかに笑う。
「想定内だ」
あんな程度のおいた、茶飯事だと笑う。お前の父親だったら、3分だったろうなと笑う。
「ウチはな、核だって調和して無力化させよう、なんて怖いことを考えるバカがいるんだ。外より内の方がよっぽど怖え」
「は、マフィアが何をいってるんだか」
「全くだな。で、どうだった」
「何が」
「初恋に蹴りつけた感想さ」
別に、と言う彼の言葉には、何の感情もにじまなかった。
廊下に午後の光が優しくうずくまる光景の中、白衣の輪郭が溶ける。
「別に、また押し倒すだけだよ」
生きている限り、諦めたりなんかしない。そう言う彼の瞳は父親によく似ていたが、宿る冷たさの種類が異なっている。父親は刃の硬質さだが、彼はじんと染みる氷水だ。
「幸い、身体機能は僕のが若い」
「気長な話だな」
「そのセリフ、30年以上初恋を子供を作っても未練がましく引きずっている男に言うべきじゃない」
「その、未練がましい男の、スペアになれる日を待つのか?」
スペア、ね。呟きリボーンを気負いなく見つめ、笑う。こんなところは彼の父親より、むしろ、彼らの初恋相手に似ていた。
「人間と、人間と同じくらいの能力を持ったロボットの違いはなんだと思う?」
穏やかな声が心地よく質問をつくる。それがなぜかくすぐったかったのでくくくっとリボーンはまた笑む。笑んで、教えてくれるかい、先生。そう投げかける。
「全部の交換が効かない。それだけだ。それで、充分だ」
じんと染みる、彼の瞳の冷たさ。その奥に火がともって、リボーンと言わず目前にあるもの全て見据えた。
「本当に交換が効く人間なんていない。だから、彼が僕をいくら雲雀恭弥のスペアに扱おうと、僕は僕だ」
「ツナが、お前の雲雀恭弥と似通った箇所に惹かれ、異なった箇所を拒絶したとしても、スペアでいるのか」
「リボーン、君は根本から間違ってる。彼が僕を望むんじゃない」
瞳の奥に隠れた火をさらに隠すように、彼は瞼をおろす。恋は盲目、に、ならなくては切なくて仕方ない。スペアになれない人間だっている、そう思ってしまったのだから、もう。
僕が、彼を望んでるんだという。前提は覆らない。
「スペアの、何が悪い」
彼を好きになってしまった理由は、もしかしたら、名前を呼ばれるのが心地よかった、からかもしれない。
誰をよんでるのかわかりゃしない名前が初めて、いいものに思えた。
僕は雲雀恭弥の子、ヒバリ。