Plam
d:addy
パパン、というかわいらしい声が隣にいた新入りのケイタイの中で弾けたのを聞いて、アドリアーノはちょっと真剣に驚いた。
とあるファミリーとかなり深く仲良しのバールの片隅。今日も仲間内で飲み明かす夜半。驚いた事ととは、見るからに貧しげで要領があまり良くなさそうな新入り、つまり使いっ走りが、ケイタイを持っていた事でもあったし、なにより。
「子ども、いたのか」
そういう甲斐性が、あるような男には見えなかったことでもあった。
アドリアーノの半独白は聞かれたらしい。ちょうど通話を終わらせた新入りはちょっとはにかんで、すみません、電話しないよういってるんですが。小さくこぼす。
「なかなか、言うこと聞いてくれなくて」
「さみしいんだろ、パパンがいないと」
「なんですかねえ」
だったら今までされた理不尽、全部流してやろうかなあ、とこぼしたものだからアドリアーノは今度はあきれた。子どもに何のわだかまりがあるんだか知らないが、旦那がこれでは奥方は困ったものだろう。
「そういやフィヴァイってどういう意味?」
「やだな、そんなにはっきり聴こえたんですか」
「いやパパン、とそれだけだ」
「遠い遠い東の方の言葉で、あなたを愛してます、って意味ですよ」
新入りは茶色の目の奥から笑って、ケイタイをくたびれた背広の内ポケットに戻した。
「ヒバリ、勝手にミッテイチューのパパンは元気そうだぜ」
「ふうん、そう。ねえ赤ん坊。僕をママンとはいってくれないの?」
「オレがママンっていうのはこの世でひとりだけさ」