call my name
噛まれた唇がじんじんと痛い。血の味が口の中に広がって、胸の辺りがつまりそうだ。
「六郎兄さん……」
ただその口で、その声で、己の名を呼んで欲しいと思っただけなのに。
「はは、は」
それでもまだ笑える自分が不思議だった。
我ながらよくわからないのだけれど、苛立ちも怒りも、もう感じない。
何故だろうかと考えて、六郎は一つの事実に行き当たる。
六郎は七郎を名前で呼ばない。七郎にとっては不満だったらしいが、果たしてそれが二人の心の距離を示すものかと言われるとはなはだ疑問だ。
だって、名前で呼ぶよりも、おい、とかお前、といった呼び方の方が、ずっと親しいのに。
七郎でも気付かないこともあるのだということが、少しだけおかしかった。
我知らず笑みを浮かべながら、無意識に七郎に抱かれた体を自分の手で抱き締めていた。
<終>
作品名:call my name 作家名:y_kamei