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鉄の棺 石の骸7

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1.
 
 WRGPは、チーム・5Dsの優勝で幕を下ろした。
 チーム・5Dsと戦い、最中に完全態「アポリア」と化して街中を暴れまわったチームニューワールドは、「アポリア」ごといずこかへと消えていった。
 勝ったのだ。勝ってシティを守れたのだ。チーム・5Dsの誰もが達成感とともにそれを確信していた。
 しかし、勝利直前にサーキットは全ての描画を終了してしまっていた。
 歓喜の最中、あざ笑うかのように空を割って現れたのは、最後のモーメント「アーククレイドル」。

――未来を賭けた最終決戦が、今まさに始まろうとしていた。



 アポリアの修復は、アーククレイドル内でちゃくちゃくと進んでいる。
 遊星からの止めを一度に喰らい海に落ち、そのまま海の藻屑になりかけていたアポリアを済んでのところで救ってくれたのは、創造主であり永遠の友であるZ-oneだった。

――思えば、私は、君にもらった身体をいつも壊してばかりだったな。本当は、もっと大事にしたかったのに。

 分身体・プラシドとして。そして今、アポリアとしても。
 プラシドの大破で一度アーククレイドルに戻された時は。
『もう少し、頑丈にしてあげられたらよかったですね……』
 Z-oneはプラシドの修復を執り行いながら、悲しそうに、申し訳なさそうに謝っていた。プラシドだった時の意識としては、力及ばず負けたのはこちらなので、そんな済まなそうな顔をしないで欲しい、と思っていた。
 直後、アポリアとしての自覚を回復させてくれた時などは、正直不甲斐ないという気持ちでいっぱいになった。
 永遠の友を、Z-oneを全ての絶望から守ってやりたいのに、自分は愚かで無力だ。
 昔、付き合っていた戦友兼恋人を守り切れず、彼女が僅かな痕跡をこの世に残して機皇帝に吹き飛ばされてしまったことを思い出す。
 彼女はとても勇ましくて綺麗で、大層優しい人だった。
 Z-oneもまた、優しい人だということを、アポリアはよく知っている。

――当てもなく彷徨っていた年老いた自分の嘆きを、しっかりと聞きとってやって来てくれた。
――初めて会った自分に、躊躇わず手を差し出してくれた。
――会話する相手もおらず、錆びついた舌で必死に語りかけた言葉を、根気よく聞きとって慰めてくれた。
――Z-oneの目指す道から決定的に逸れていた自分の身の上を、無下に撥ね退けずに受け入れてくれた。
――永遠の友として認めてくれたのだ。


 Z-oneの計画は、今最終段階に入った。
 ついに運命の日がやって来たのだ。
 Z-oneは、未来がその形を変えつつあるのだと語った。ならば、自分たちは計画の最後の一押しをするまでだ。
 一つは、アーククレイドルをネオドミノシティに墜落させ、モーメント技術を消滅させる。
 モーメント技術開発の拠点を潰し、シティの犠牲を持ってしてモーメントの危険を知らしめる。
 もう一つは、不動遊星に、彼が将来獲得するはずだった戦うための力を前倒しで与え、破滅のポイントが避けられなくなる前に時間の枝の向きをを変えさせる。
 彼がダークシグナーの事件やWRGPを通して、それだけの力を手に入れたことを、アポリアは身をもって知っている。

 しかし。
 アポリアは、英雄・不動遊星を今でも大層嫌っている。 
 Z-oneに期待されて彼の身体を捧げられたくせに、決定的な破滅は避けられなかった。そのまま大人しく引っ込んでしまえばよかったものを、彼は未だに意地汚くZ-oneの身体に居座り、Z-oneを苦しめ続けている。
 Z-oneに絶望を与える存在なんて、この世に必要ない。「あれ」をあるがまま彼の一面として認めることも、到底出来そうもなかった。
 アポリアはまた、この時代の不動遊星も酷く憎んでいる。
 前々からの恨み以前に、彼がZ-oneの中に居座る「不動遊星」の過去の姿でもあったからだ。

――Z-oneに絶望を与える存在は、全てこの手でうち滅ぼしてやる。
――例えそれが、英雄と呼ばれる男であったとしても。
――Z-oneがそれを望んでいないと知っていたとしても、必ずだ。

 マニピュレーターは、黙々とアポリアの修理にかかっている。
 Z-oneは、自らの休息を削ってでもアポリアを助けてくれようとしている。
 アポリアは、Z-oneをこの手で救ってやりたいと密かに思っていた。
 彼を取り巻く絶望から。彼を今でも苦しめている「遊星」から。この世界の逃れられない運命から。
 例えそれが、心を捨てて完全な機械になる行為だったとしても。

――私は、もっと君と話していたかった。人として生きていた時も。機械になった今でもそう思うのだ。


 2.

 自分がチーム・5Dsの他のメンバーとともに優勝を分かち合っていたのは、一体いつのことだったか。
 本当は数時間しか経っていないのに、もう何か月も経っているような気がする。
 あの後アーククレイドルが出現したために、もう優勝祝いどころではなくなり、今に至る。

 ブルーノは、デルタ・イーグルに乗り込み、一人でビフレストの出現ポイントに急いでいた。
――アーククレイドルに、地上から虹の橋をかけ、D-ホイールで一気に駆け抜ける。
 一見与太話だと片づけられるようなその計画も、力を借りれば実現が可能だった。魔法カード《ビフレスト》と神のカードとルーンの瞳、そして一基だけ動き続ける旧モーメントの力を。
 ブルーノはビフレスト計画を遊星に知らされ、たった今全ての整備を終えて旧モーメントから出てきたところだった。

 十二時間以内の遊星の死が、先ほどシェリーから予言された。
 遊星は、仲間を危険に晒してしまうのを好まず、たった一人でアーククレイドルに乗り込もうとしていた。
 なので、アーククレイドルに突っ込む可能性がないブルーノに容易く計画の全貌が伝えられた。
 チーム・ラグナロクもブルーノを非戦闘員として疑わず、君一人で避難しろとあっさり解放された。
 こうして一人でビフレストに向かっている訳なのだが。

――あのねえ、遊星。
 心の内で、ブルーノは少々呆れていた。

――僕がれっきとした決闘者ってこと、君は本当に忘れてしまったのかな?
――あの時、セキュリティの詰めデュエル、解いたの僕だよ?
――僕、量産型のD-ホイールにだって乗れるんだよ?
――君と一緒に、アーククレイドルに乗り込んで行きそうなことぐらい、ちょっと考えれば君にだって分かるでしょ?

 確かに、この姿で決闘したことは一度としてなかったのだが。
 ブルーノに決闘の知識があることくらいは予想していて欲しかった。
 先ほど通信を傍受して、ジャックたち他の仲間が後から遊星を追いかけているのを知ったが、自分の存在はトイレに行ってから後、彼らの念頭からすっぽり消えてしまったらしい。
 忘れられたからではなく、あくまで非戦闘員として見なされているからだとブルーノは思う。
 その割に、幼い龍亞龍可も戦闘員に入っているのはどういう訳なのだろうか。いや、れっきとしたシグナーではあるのだろうが。

――人畜無害ってのも、考えものだよね。こんな風に、非常事態時はどうしても影が薄くなるもの。
作品名:鉄の棺 石の骸7 作家名:うるら