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鉄の棺 石の骸7

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――でも、まあいいか。これで心おきなく遊星を助けに行けるんだし。
――僕は僕なりに僕の使命を果たすまでだ。

 虹の橋ビフレストは、ダイダロスブリッジからアーククレイドルに互いを繋ぐ道を作った。
 ダイダロスブリッジがこの先希望になるのか、それとも絶望の象徴になり果てるのかは遊星たち次第だ。
 ブルーノは遊星を救う使命を完遂するつもりでいる。同時に、少し期待もしている。
 記憶が大方回復した後も未だに戻らない記憶の一部。解放されない最後のフラグ。
 アーククレイドルに行けば、全ての真実が明らかになるに違いない。
 その時が来るまで、ブルーノは遊星をとことん導いてやろうと思った。


 3.

『2xxx年xx月xx日。天気は曇。私は今、自室のパソコンの前でこのレポートを仕上げている』
『数日前から、目の前が霞み始めた。もう、私も長くないのだろう。まさか、この私が先陣切って死ぬことになろうとは思ってもみなかった。このまましぶとく生き続けるものだと期待していた』
『だが、私の死後復活するというコピーロボットには、幾分興味を持っている。一つの人格データとして蘇るなど、普通の人生ではまず味わえない、貴重な出来事だ』
『私にとっては私自身も、この世に復活するという次の私もまた研究対象なのだ』

『死ぬ前に、やっておきたい実験がある。私は、次の私に宿題を与える』
『復活後直ちに、ある一つの思いに基づき、お前のなすべきことをしろ。宿題はそれ一つきりだ、簡単だろう?』
『どんな思いなのかはここにあえて記さない。カンニングは嫌だからな。ヒントはパソコンに残っているはずだからくまなく探せ。お前が私なら、ヒントなしでもあれに到達できるはずだ』

『しかし、時間がないのを分かってしまうのは、少々歯がゆいものだ。もう少し丁寧に仕上げたいレポートもあったのに』

『そうだ。一つ記さねばならないことを忘れていた。これまでに調査していた「二心同体」についてだ』
『私は、「二心同体理論」を、Z-oneの複数人格の混在の解決に使おうと、少ないデータを必死にかき集めていた』
『その最終結論を、身体が動くうちに今この場で記そう』

『私は、最初、Z-oneが「不動遊星」の人格データを取り込み、彼が自ら英雄になりきっていたのだと確信していた』
『例えるなら、思考パターンを組み込んだ着ぐるみだな。あれを着れば、どう着ぐるみを動かせばいいか素人にでも分かると思う』
『彼自身、「人格データのコピー」と表現していたから、彼は「不動遊星」の複製品だと、私は今まで思っていた』
『考えが甘かった。――研究対象の主観のみで研究を進めようなど、私の手順が間違っていたのだ』
『彼は、計画の失敗に心を痛めていたから、なおさら事実にバイアスがかかっていたのだろう』

『私は問う。例えばの話だ』
『一つ。フォルダAからフォルダBにファイルaをドラッグアンドドロップし、後にファイルc入りのフォルダCに、フォルダBをそのままドラッグアンドドロップする行為』
『一つ。それぞれファイルaとファイルbを入れたフォルダAとBを、空っぽのフォルダCにそのままドラッグアンドドロップする行為』
『一つ。フォルダAからファイルaをファイルb入りのフォルダBにそのままコピーアンドペーストする行為』
『この作業の中で、果たしてファイルaは元のファイルaのものと同価値であると言えるだろうか』

『一つ目は、もちろん同価値と言えるだろう。オリジナルのファイルを別の位置に持ってきただけだからだ』
『二つ目も、まあ別の場所に移動しただけだな』
『では三つ目は?』

『コピーした時期によって蓄積される情報は変わってくるが、それでもファイル自体はaそのものだと言えるのだろうな』

『偽物というのは、本物を手本にして作った劣悪な模造品だ。いくら詳細に似せていても、本物とは決定的に違うものだ』
『しかし、コピーアンドペーストを経たファイルはどうだろう。人はそれを「バックアップ」と呼んでも、「偽物」とは呼ばないのではないだろうか』
『元のファイルとそっくりそのまま、ファイルが果たす能力も同じだからな。その後の利用者の使い方によってペースト後の働きは変わって来るだろうが』
『元のファイルが破損して亡くなった場合などは、確かに利用者の助けになってくれるはずだ』

『この例えは、名も無き王、カードの精霊。そしてかつての英雄に当てはめることができないか』
『人格データも魂の一形態と見なすなら、という前提がつくが』

『Z-oneは、コピーされた「不動遊星の人格データ」を自らの身体にインストールした』
『二心同体理論では、器となる身体の持ち主を「表人格」、器にインストールされる人格を「闇人格」というらしい』
『この理論に従うなら、「Z-one」が表人格、「不動遊星」が闇人格と言えるな』

『Z-oneは、不動遊星の闇人格ではない。「不動遊星」の方がZ-oneの闇人格であり、過去に生きていた不動遊星は言わばその原型だ』
『この関係は、武藤遊戯と名も無き王、そして昔生きていた現役の王にも当てはまる』
『Z-oneたちは、彼らの関係から、表人格の、肉体の操作権を極度に制限したものと言える』
『闇人格による能力の行使において、表人格の人権は必要不可欠な要素ではない』

『「王」と違い、そのままで「不動遊星」の器となりうる人材は確認できなかった』
『だからこそ、Z-oneは自らを器に改造し、「不動遊星」に明け渡したのだ』


『……偽物? 模倣? 違うな。あれは、「Z-oneたち」は、この時代の、この世代の―――』



『――「二心同体」だ』


(END)


2011/3/2
作品名:鉄の棺 石の骸7 作家名:うるら