二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

家庭教師情報屋折原臨也7-2

INDEX|5ページ/5ページ|

前のページ
 




 時間があるときには静雄は学校帰りに池袋の街を動き回った。あの場所に来たということは、自分の事を調べているのだろう。そう推測を立てて細い道を中心に巡った。しかしなぜあの情報屋が自分の事を調べまわっているのだろうか。それが疑問だった。接点はてんで思い当たらない。向こうが自分を知らないことは多分ないだろう。だが彼が関わるような社会に足を突っ込んだ覚えは全くない。裏社会に目でもつけられたかとも思うが、生憎と喧嘩を売ってきていたのは不良学生ばかりである。そんなはずはと思いつつも彼らが実はつながりがあったのかと思い始め……諦めた。これ以上考えていても考えるだけ無駄だと結論付け、静雄は校門を抜けた。

 二時間が経過し、家での勉強のことも考え今日は帰るかと思っていた矢先のことだった。
 家に帰るために角を曲がったが、すぐにその角の建物に身を隠した。
 ――― ……いた
建物の物陰から静雄は様子を窺った。情報屋の横にはもう一人見覚えのある人が立っていた。確か文化祭の時に臨也が挨拶をした人だ。たしか名前は門田。彼は情報屋と何か喋っていた。知り合いだったのか。しかし会話の内容までは聞こえない。
静雄は注意深く様子を見ることにした。情報屋を明るいうちに見かけるのは二度目だったが、じっくり見るのは初めてだった。その後ろ姿は覚えのある人物に妙にかぶった。
――― あれ?あいつって……

「や」
同時に肩を叩かれ、自販機でコーラを購入しようとしていた門田は振り向いた。
「臨也か。何だ、昼間っからそんな恰好して」
門田は臨也の身なりを見ていった。いつも黒いコートを着ているのは見慣れていたが、日中からフードを被っている様子はおかしかった。まして周りに注意を払うように深く被っていた。
「ちょっと面が割れると困るからね」
臨也は自販機横の壁に背を預けた。
「あぁ、あいつにか」
すぐに合点がいった。門田の様子に臨也は一つ頷いた。
「最近俺のこと探してるみたいでさ」
池袋のあちこちを歩き回っている静雄を臨也は何度か目撃した。
あの夜、まさかあそこで静雄に会うとは思わなかった。何とか撒くことはできたが次はないかもしれない。あの時は本当に焦ったと、今でもその感覚を鮮明に覚えている。
 門田は缶のプルタブを開けた。炭酸特有のガスの抜ける音とともに泡の立つ音がわずかに聞こえた。
「で、どうなんだ?状況とやらは」
「まぁまぁ駒はそろってきたよ。あとは仕上げに火を放てば終わり。全く我ながら自分の力を褒めたいよ」
そう言いながら、臨也は手でライターの火をつける真似をした。それを見て、門田は缶から口を離し溜息をついた。
「お前、いつかやられるぞ」
「その時はその時、対処するさ」
それができない自分ではない。臨也は言った。
 そこで会話が止まった。臨也は見かけて声を掛けただけで、門田も特に臨也と話す話題を持っていなかった。首都高速を走っていく車の音、表を歩く人々の喧騒が遠くのように聞こえた。このあたりは裏通りなので人も滅多に通らない。時折スーツを着た男性が抜け道代わりに使うか、電話をかけるために立ち寄るくらいだった。
そこはとても静かで、つい臨也は呟いた。
「まぁ、ちょっと今回は無理したかもしれないかなぁ……」
「?」
空になったコーラの缶を、門田が自販機横にあったごみ箱に捨てて臨也の方を振り返るまえに、落下音が鳴った。門田は反射的に振り返ると臨也が消えていた。
そのまま視線を下ろすと、地面の上に倒れていた。
「おい、臨也」
慌てて口元に手を置けば規則正しい呼吸を繰り返していた。それを感じて門田は安堵の息を吐いた。
「……俺はタクシーじゃねぇっての」
そう呟きポケットから携帯を取り出したところで「臨也!」という声を聞いた。

 静雄は思わず駆け出していた。幽からの近々家に帰るというメールに気を取られてしまった間何があったのか、次に視線を戻したときには臨也は倒れていた。
 しかし飛び出したところでどうなるのか。そこを考えていなかった。
「お前……」
「ッ!」
門田は携帯電話を手にした不自然な状態で静雄を見上げた。もしかしてまずい間合いで出てきてしまったか。そう後悔したが、門田は特に何も言わず臨也に苦笑いを向けたまま電話を繋げた。会話の内容を聞く限り、臨也を家へ運ぶようだった。
 二件掛け終えて電話を切り、門田は静雄の方を向いた。
「連れに車を回させるんだが、臨也運べるか?」
「え?あぁ」
標識を軽々と回せるのだからそんなことは容易いことだった。しかし目の前の門田も臨也を運ぶには十分な体格を持っているように見えた。わずかに疑問を感じつつ、静雄は臨也の傍に膝をついてその身体を背負った。静雄の鞄は門田がすでに持っており、その後を追いかけた。
 着いた場所はシネマサンシャイン付近の駐車場で、かわいらしい女の子の絵が描かれた銀色のワゴン車が止まっていた。門田は開いたウィンドウから運転手に話しかけた。
どうしようかと考えていると、ワゴンの後部座席のドアが開いた。
「こっちこっち」
「どうぞっす」
「あ、はい」
静雄は先に臨也を倒されたシートに寝かせ、降りようか迷っていたところドアが閉められてしまった。とりあえず座席に座り直しシートベルトをつけた。
 ふと横を見ると二人が座席から顔をのぞかせて臨也を見ていた。
「イザイザって寝顔可愛いんだねー」
「意外な盲点ですね」
女性の方が指で頬をつつこうとしていたところ注意が飛んできた。
「おい、あんまりちょっかい出すなよ」
酷い返り討ちが待ってるからな。そんな音声が含まれていた気がした。彼らは大人しく返事を返し、そのままよくわからない話題で盛り上がり始めた。百合?ツンデレ?いくつもの分からない言葉に疑問符が飛んだ。
 門田が助手席に乗り込むと、車は裏道を抜けて首都高沿いに、新宿に向かった。