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家庭教師情報屋折原臨也7-2

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 そしてこの時ほど、家庭教師の時間が気まずいことはなかった。
 自分がノートに文字を書く音が大きく感じるくらい、恐ろしいくらいに静かだった。ちらりと臨也の方を見るが、何かをずっと考えているようで心ここにあらずといった状態だった。質問をすると普通に答えは返してくれた。ただそれ以上の会話はなく、機械のような時間だった。
「臨也、この英文の訳なんだけどさ」
問題集を見せながら、静雄は臨也に問うた。臨也はぼんやりとその問題を眺めた。
「……それは強調構文だね。あとこの時におけるhouseの意味は泊まるって意味だから。あとはこのthat以下はここに掛かってきて、さらにwhichでこの単語は説明されているから」
その声に感情はなかった。そこで説明は止まり、静雄は机に身体を戻した。
やはり何か変だ。そう静雄は思った。臨也が今までにこんなに“感情がない”ことは無かった。さらに病院では逃げたのに家庭教師として臨也は普通に現れた。何であの時答えなかったんだと文句の一つでも言えたらもっと違う展開が待っていたのかもしれなかった。しかし家に来た時点からずっとこの調子で、尋ねたところで明確な答えが期待できなかった。いやむしろ意地でも答えないだろう。所詮臨也と自分は家庭教師とその生徒という関係であり深入りする必要はないのだと考えることにしたが、どこか納得できずまた悔しさに似たものを感じた。
臨也は時折目を擦り、目薬を点していた。それは今までになかった行動であった。
「大丈夫か?」
思わず静雄は尋ねた。
「大丈夫だよ。ちょっと目が乾いてさ」
そう臨也は返すがその顔に生気はなく、返事が全く信じられなかった。

 三時間が経ち、臨也は帰り支度を始めた。コートを羽織り鞄を抱えて部屋を出て行く。静雄も勉強道具を今日はそのままにして玄関まで見送った。
「じゃあまた」
「あぁ」
がちゃん、とドアが閉まった。