こらぼでほすと 襲撃8
ここでは、狭すぎる、と、歌姫の居間へ移動して、準備された軽食を刹那とフェルトに分けてやってから、口を開いた。勝手に運び込まれたものの、勝手に滞在していることに代わりはないからだ。
「勝手に邪魔して申し訳ない、オーナー。」
「まあ、そんな他人行儀なことをおっしゃらなくてもいいんですよ? ロックオン。キラが、あなたのことを『ママ』と呼ぶ限りは、私にとってもママですわ。ママが、自分の子供の家に滞在することに、何の遠慮がいります?」
「・・・オーナー・・・俺、刹那たちだけで手一杯だから、増やさないでください。」
「まあ、差別はよくありませんよ? 私くしだって天涯孤独の身の上です。どうぞ、よろしく願いしますね? ママ。」
コロコロと鈴が転がるように優雅に笑って、ラクスは小首を傾げる。いや、俺は男だし、ママって柄じゃねぇーよ、と、反論しようとしたら、先に、刹那のほうが前に出てきた。
「これは、俺のおかんだから、あんたは八戒さんにしろ。」
フギーと威嚇しつつ、睨む。フェルトも同意見ならしく、ロックオンの袖を握って、歌姫を無言で睨んでいる。
「刹那、キラと悟空は、八戒さんとロックオンという二人のママを持っておりますのに、私くしだけダメというのは、いかがなものですかしら? 」
言葉では勝てない刹那は、ギトッと睨むだけで、親猫にぎゅっとしがみつく。はいはい、と、親猫は子猫たちの肩や頭を軽く叩いて、食事にほうに関心を戻させた。そういや、オーナーも天涯孤独か・・・と、思い出した。
「まあいいですけどね。俺を、おかん認定すると、叱りますよ? 」
「私くし、すでにぶたれたことがございますけど? 」
「え? ・・・ああ、あれは・・・」
悪戯が過ぎると叱ったことがある。オーナーであっても、他人の気持ちを傷つけるかもしれない行為だったことを叱ったのだ。いわゆるところの、社会のルールから外れていると思われたから、年上として叱ったのであって、おかんのしつけではない。
「ですから、身内のつもりでいてくたさればいいのです。ここは、『吉祥富貴』のスタッフには開放しております。どうぞ気兼ねなく滞在してくださいませ。」
「遠慮することはねぇーよ、ママニャン。俺らだって用事があれば、こっちに滞在してることもあるし、ハイネなんか自分の部屋を勝手に作ってるぜ? 」
今回のようにMS組が動く場合は、ラボで指揮を執ることが多いが、特区内でのアクシデントの場合は、本宅で誰かが指揮をして、動くことになる。そのために『吉祥富貴』のスタッフは全員、ここのパスを持っている。
「そりゃそうですけど。」
「それに、あなたの場合は、体調が優れない場合は、こちらにいるほうが何かと便利でしょう。ドクターも、ホームグラウンドは、こちらですし、治療設備もラボと同様のものが設置されていますからね。」
年に何度かは、起き上がれないなんてことになる。それから考えれば、一番利用するのは自分だろう、と、ロックオンも苦笑する。八戒の言葉に、フェルトはサンドイッチを食べていた手を止めた。
「やっぱり、具合悪いの? ロックオン。」
「悪いんじゃないんだけどさ。ここは、季節が四つあるんだが、その変わり目が、どうも身体によくないみたいでな。身体がだるくて難儀するんだよ。」
「今も? 」
「ああ、ちょっとだけな。・・・ほら、冷めるから先にメシ食いな、フェルト。」
うん、と、フェルトもサンドイッチを齧る。王留美の報告は、重篤だったが、それほどではないのだろうが、マイスターとしての仕事はできないらしい。わかっていたことだが、それは悲しい。表情が曇ってしまったフェルトを、八戒が気付いてフォローする。
「地上で、普通に暮らしている限りは大丈夫ですよ、フェルトさん。・・・それより、オーナー、僕らも滞在させていただきますが、よろしいですか? 」
「ええ、そうしてくださいませ。明日は、遊園地へ参りますから、ご一緒してくださいね? ハ戒さん、悟浄さん。」
「「はい? 」」
分刻みのスケジュールをこなしているはずの歌姫が、突然に遊園地なんて言い出したら、誰だって驚く。
「さっき、キラにも連絡しました。明日には戻れるそうですので、子猫ちゃんたちとの親睦のためにも、それがよろしいかと思いますの。」
「いや、歌姫さん、あんた、仕事は? 」
「過労で倒れたことにします。」
それでも、せいぜい五日しか都合がつかなかった、と、歌姫は不満そうだ。二週間休みたいと調整させたのだが、生憎と、一週間後にAEUでニコルとのコンサートがあって、それだけは外せないらしい。リハーサルもあるので五日後には、AEUへ移動だ。
「ですから、これから五日間は、子猫ちゃんと遊びます。よろしいですか? ロックオン。」
「そりゃ、俺は有り難いけど。」
「うふふふ・・・・キラも張り切っておりますので、子猫たちのことは任せてください。あなたは、ゆっくりと養生していただきませんとね。」
ロックオンにしたら、有り難い展開だ。せっかくだから、どこかへ連れ出してやりたいと思っていたのだから、それも、歌姫が一緒なら大騒ぎして楽しませてもらえるだろう。
「なあ、歌姫さん。悟空も誘ってやってくれないか? 学校の都合がついたら、あいつも行きたいだろうからさ。」
「ええ、悟浄さん、悟空にも声はかけておきました。明日、午後から合流するそうです。」
本宅への移動中に、それらの手配は済ませた。近くの遊園地を借り切ることにしたから、来られる人間は誘っておいたのだ。ここ三日ぐらいは晴れの予報だから、ちょうどよかった。雨なら、屋内の施設へ出向けばいいし、フェルトならショッピングにも付き合ってもらえるだろう。歌姫の親友の筋肉脳姫は、そういうことは付き合ってくれないのだ。たまに、キラは付き合ってくれるが、服を選ぶとかいうことになると、熱心ではない。ここは、ひとつ、普通の女の子として遊びたい、と、ラクスも、いろいろ計画中だ。
「フェルトさん、一緒に美味しいスイーツをハシゴしましょうね? 」
「・・あの・・・」
「大丈夫ですよ。一日のうち、何時間か、私くしにお付き合いしてくださるだけでよろしいんです。ママは、ここから逃げませんから、空いた時間は、ママと過ごせますわ。」
「うん、連れて行ってもらえ、フェルト。たまには羽目を外して遊んでこいよ。刹那も一緒だし、怖くないからな。」
「俺は行かない。」
「刹那、勝手はいけませんよ? ママは、ゆっくりさせてあげるほうがよろしいんですからね。」
で、黒子猫というのは、いくら天下の歌姫様の命令でも無視する。ぷいっと歌姫から視線を外して、マフィンにかじりつく。なんでこう頑ななんだろうな、うちの子猫たちは・・・と、ロックオンが笑いつつ、ひとつ提案を持ちかける。
「刹那、オーナーたちと一緒に出かけて俺の欲しいものを買ってきてくれないか? 俺、出られないから頼みたいんだけど。」
「なんだ? 」
「雑誌。読み物が底を尽きそうなんだ。」
「わかった。」
そういう用件というか、依頼があれば、刹那も外出はする。どこかで、コンビニにでも立ち寄ってもらえれば済ませられる程度の用件だ。
「勝手に邪魔して申し訳ない、オーナー。」
「まあ、そんな他人行儀なことをおっしゃらなくてもいいんですよ? ロックオン。キラが、あなたのことを『ママ』と呼ぶ限りは、私にとってもママですわ。ママが、自分の子供の家に滞在することに、何の遠慮がいります?」
「・・・オーナー・・・俺、刹那たちだけで手一杯だから、増やさないでください。」
「まあ、差別はよくありませんよ? 私くしだって天涯孤独の身の上です。どうぞ、よろしく願いしますね? ママ。」
コロコロと鈴が転がるように優雅に笑って、ラクスは小首を傾げる。いや、俺は男だし、ママって柄じゃねぇーよ、と、反論しようとしたら、先に、刹那のほうが前に出てきた。
「これは、俺のおかんだから、あんたは八戒さんにしろ。」
フギーと威嚇しつつ、睨む。フェルトも同意見ならしく、ロックオンの袖を握って、歌姫を無言で睨んでいる。
「刹那、キラと悟空は、八戒さんとロックオンという二人のママを持っておりますのに、私くしだけダメというのは、いかがなものですかしら? 」
言葉では勝てない刹那は、ギトッと睨むだけで、親猫にぎゅっとしがみつく。はいはい、と、親猫は子猫たちの肩や頭を軽く叩いて、食事にほうに関心を戻させた。そういや、オーナーも天涯孤独か・・・と、思い出した。
「まあいいですけどね。俺を、おかん認定すると、叱りますよ? 」
「私くし、すでにぶたれたことがございますけど? 」
「え? ・・・ああ、あれは・・・」
悪戯が過ぎると叱ったことがある。オーナーであっても、他人の気持ちを傷つけるかもしれない行為だったことを叱ったのだ。いわゆるところの、社会のルールから外れていると思われたから、年上として叱ったのであって、おかんのしつけではない。
「ですから、身内のつもりでいてくたさればいいのです。ここは、『吉祥富貴』のスタッフには開放しております。どうぞ気兼ねなく滞在してくださいませ。」
「遠慮することはねぇーよ、ママニャン。俺らだって用事があれば、こっちに滞在してることもあるし、ハイネなんか自分の部屋を勝手に作ってるぜ? 」
今回のようにMS組が動く場合は、ラボで指揮を執ることが多いが、特区内でのアクシデントの場合は、本宅で誰かが指揮をして、動くことになる。そのために『吉祥富貴』のスタッフは全員、ここのパスを持っている。
「そりゃそうですけど。」
「それに、あなたの場合は、体調が優れない場合は、こちらにいるほうが何かと便利でしょう。ドクターも、ホームグラウンドは、こちらですし、治療設備もラボと同様のものが設置されていますからね。」
年に何度かは、起き上がれないなんてことになる。それから考えれば、一番利用するのは自分だろう、と、ロックオンも苦笑する。八戒の言葉に、フェルトはサンドイッチを食べていた手を止めた。
「やっぱり、具合悪いの? ロックオン。」
「悪いんじゃないんだけどさ。ここは、季節が四つあるんだが、その変わり目が、どうも身体によくないみたいでな。身体がだるくて難儀するんだよ。」
「今も? 」
「ああ、ちょっとだけな。・・・ほら、冷めるから先にメシ食いな、フェルト。」
うん、と、フェルトもサンドイッチを齧る。王留美の報告は、重篤だったが、それほどではないのだろうが、マイスターとしての仕事はできないらしい。わかっていたことだが、それは悲しい。表情が曇ってしまったフェルトを、八戒が気付いてフォローする。
「地上で、普通に暮らしている限りは大丈夫ですよ、フェルトさん。・・・それより、オーナー、僕らも滞在させていただきますが、よろしいですか? 」
「ええ、そうしてくださいませ。明日は、遊園地へ参りますから、ご一緒してくださいね? ハ戒さん、悟浄さん。」
「「はい? 」」
分刻みのスケジュールをこなしているはずの歌姫が、突然に遊園地なんて言い出したら、誰だって驚く。
「さっき、キラにも連絡しました。明日には戻れるそうですので、子猫ちゃんたちとの親睦のためにも、それがよろしいかと思いますの。」
「いや、歌姫さん、あんた、仕事は? 」
「過労で倒れたことにします。」
それでも、せいぜい五日しか都合がつかなかった、と、歌姫は不満そうだ。二週間休みたいと調整させたのだが、生憎と、一週間後にAEUでニコルとのコンサートがあって、それだけは外せないらしい。リハーサルもあるので五日後には、AEUへ移動だ。
「ですから、これから五日間は、子猫ちゃんと遊びます。よろしいですか? ロックオン。」
「そりゃ、俺は有り難いけど。」
「うふふふ・・・・キラも張り切っておりますので、子猫たちのことは任せてください。あなたは、ゆっくりと養生していただきませんとね。」
ロックオンにしたら、有り難い展開だ。せっかくだから、どこかへ連れ出してやりたいと思っていたのだから、それも、歌姫が一緒なら大騒ぎして楽しませてもらえるだろう。
「なあ、歌姫さん。悟空も誘ってやってくれないか? 学校の都合がついたら、あいつも行きたいだろうからさ。」
「ええ、悟浄さん、悟空にも声はかけておきました。明日、午後から合流するそうです。」
本宅への移動中に、それらの手配は済ませた。近くの遊園地を借り切ることにしたから、来られる人間は誘っておいたのだ。ここ三日ぐらいは晴れの予報だから、ちょうどよかった。雨なら、屋内の施設へ出向けばいいし、フェルトならショッピングにも付き合ってもらえるだろう。歌姫の親友の筋肉脳姫は、そういうことは付き合ってくれないのだ。たまに、キラは付き合ってくれるが、服を選ぶとかいうことになると、熱心ではない。ここは、ひとつ、普通の女の子として遊びたい、と、ラクスも、いろいろ計画中だ。
「フェルトさん、一緒に美味しいスイーツをハシゴしましょうね? 」
「・・あの・・・」
「大丈夫ですよ。一日のうち、何時間か、私くしにお付き合いしてくださるだけでよろしいんです。ママは、ここから逃げませんから、空いた時間は、ママと過ごせますわ。」
「うん、連れて行ってもらえ、フェルト。たまには羽目を外して遊んでこいよ。刹那も一緒だし、怖くないからな。」
「俺は行かない。」
「刹那、勝手はいけませんよ? ママは、ゆっくりさせてあげるほうがよろしいんですからね。」
で、黒子猫というのは、いくら天下の歌姫様の命令でも無視する。ぷいっと歌姫から視線を外して、マフィンにかじりつく。なんでこう頑ななんだろうな、うちの子猫たちは・・・と、ロックオンが笑いつつ、ひとつ提案を持ちかける。
「刹那、オーナーたちと一緒に出かけて俺の欲しいものを買ってきてくれないか? 俺、出られないから頼みたいんだけど。」
「なんだ? 」
「雑誌。読み物が底を尽きそうなんだ。」
「わかった。」
そういう用件というか、依頼があれば、刹那も外出はする。どこかで、コンビニにでも立ち寄ってもらえれば済ませられる程度の用件だ。
作品名:こらぼでほすと 襲撃8 作家名:篠義