GUNSLINGER BOYXIV
仲間の一人がこらえきれずに発砲したのだ。思わず撃った仲間の方を向いた瞬間、銃を持っていた手に激痛が走った。次いで腹部を思い切り蹴られあばらが砕けるのを感じながら後方に吹っ飛ばされた。壁に激突し一瞬意識が飛ぶ。
呻きながら目を開けると、目の前に仲間の一人がうつ伏せに倒れていてその向こうにもう一人の仲間の首元を素手で掴んでいる子供の姿があった。
悪夢だと思いたかったがこの激痛を夢だと思えるほど楽天主義ではない。しかし本当に何なんだこのガキは。悪魔か何かか。今のは人間の動きじゃない。
思い当たることならあった。
公社を調べていて殺された仲間が最後によこした通信。
『社会福祉公社は本当に化け物を作っている』
それは何年か前に小耳に挟んだ気がする都市伝説と同じだった。当時は全く本気になどしなかった。人造人間だとか人型殺人兵器だとか、そんな怪談話のような噂。
それから想像したのはよく映画なんかに出てくるようなものだった。そんなこと流石にあるわけないと鼻で笑った。
しかし現実に目の前にいるのはどう考えても本物の怪物だ。
しかも、まるで普通の子供の姿をした。
「う゛・・・・お前、公社の作ったバケモノか・・」
「・・・・・・」
子供は否定も肯定もせずに手で掴んでいた仲間を捨てるように床に投げた。
「はっ・・・公社は、マジで狂ってやがるな・・・」
「・・・・・・・」
「まさか、こんなガキみてえなの・・・頭おかしいんじゃねえか」
「・・・・・うるさいです。ちょっと黙ってて下さい」
「ぐあっ・・!!」
なんのためらいもなく投げられたボールペンがダーツの矢のようにわき腹に突き刺さった。
投げたボールペンが刺さる時点でおかしい。
「これ以上怒らせない方がいいと思うよ?うちのナイト様は見た目に似合わずドSで容赦無いから」
縛られたままの男は軽い口調でそう言い、「縄ほどいてよ帝人くん」とぱたぱたと足を動かした。
「・・・そのナイト様っていうの何か嫌です」
「え~?どう考えても今回の俺捕らわれの姫ポジだったじゃん」
「こんな凶悪な姫いません。大体、その縄自分でほどけるんでしょう?」
「いや、そうだけど帝人くんにほどいて欲しいな~」
「・・まったく」
馬鹿げたコントのような会話をしながら子供はポケットから血の付いたカッターを取り出しざくりと男の縄を切った。
そして眉を寄せながら男の顔を見つめたかと思うと再度銃を取り出してこちらに向けかまえた。
「いや、さっさとこいつら縛って帰ろうよ。公社の後処理班ももうすぐ来るし」
「でも・・・こいつら、臨也さんに」
「大して殴られてもないよ」
「あざが」
「大丈夫だよ」
「顔にあざが、それにきっと縄の痕もついてるし、」
「最初からこういう作戦なんだから仕方ないだろ?」
「許せない」
「ダメだって。やりすぎて殺しちゃうかもしれないだろ?」
「許せない、だって、」
「帝人くん」
「っ・・・・・・・・」
「殺したら公社の命令に背いたってみなされるだろ?そうなったら条件づけを強制されるかもしれない。だからダメだよ」
親に叱られた子供のようにしゅんと頭を下げ唇を噛む様は本当にただの少年のようだった。
ああ、痛みと出血で徐々に視界が霞んでいく。
「・・・・・・・だから僕は、最初からこんな任務嫌だったんです」
最後にそんな言葉を聞いて意識は闇に落ちていった。
目を覚ました時に本当の地獄が待っているとも知らずに。
作品名:GUNSLINGER BOYXIV 作家名:net