GUNSLINGER BOYXIV
それから数分後、銃声や叫び声はやんだ。突然水を打ったように静かになったことが逆に不気味だった。一騒動起きた後だというのに誰の声も・・足音すらしないのだ。
様子を見に部屋から出て行った仲間も戻ってこない。
しびれをきらし自分で下階を見に行こうかと思いはじめたころ、部屋の前の廊下で足音がした。
緊張が走る中、音を立てて尋問室のドアが開かれる。
そこに立っていたのは・・部屋から出て行った仲間の一人だった。
どっと緊張の糸がほぐれる。
「下はどうだった?何があったんだ?」
・・呼びかけてみるが反応がない。
よく見れば仲間の顔色は真っ青で目の焦点が合っていない。
まるで死人のようだ。
「お・・・おい、大丈夫か?」
「・・・・・・・・・」
仲間は答えない。
ぐらり、と大柄な仲間の体が傾いた。
そのまま前のめりに倒れていく様子はまるでスローモーションのようだった。
倒れて分かった。
仲間の首には・・深々とボールペンが突き刺さっていた。
「ひっ・・・・・・!?」
「な・・・・なんだ、どうしたんだ!?おいっ・・!」
急いで駆け寄ろうとした時、ゆらり、と小柄な人影が倒れた仲間の背後に現れた。少年だ。
血で濡れたその姿は一瞬亡霊か何かのようにも見えたが・・しかし実際はその血は全て返り血であり少年自身はほぼ無傷だった。
目を疑った。
それは間違いなく、地下に監禁していたはずの子供だった。
幼くあどけない容姿にまったく似合わない大きな銃を片手で持ち、もう片手には仲間の首に刺さっているのと同じタイプのボールペンを握っている。
銃は仲間の一人が愛用していたもので、ボールペンは10本入りいくらで購入し資料室で使っていたものだ。
あまりのことに絶句していると存在すら忘れかけていた男が場違いなほどのんきな声で子供に呼びかけた。
「帝人くん、ずいぶん早かったね」
呼ばれた子供もなんでもないような平坦な声で答えた。
「いえ、僕のところにスープを持ってきた人が世間話するみたいにベラベラと話してくれまして・・・やっぱり、誠ニさんたちが追っていた人が所属していた組織というのはここで間違いなさそうです」
「そっか。わざと捕まったかいがあったね」
「なっ・・・て、てめえ!!」
椅子にくくり付けられたままの男に銃口を向けるが男はまったく意に介した様子もなくニヤリと猫のような笑みを浮かべた。
「なかなかだったでしょ?俺の演技。顔殴られるのは正直ちょっとキツかったけど」
最初から騙されていたというのか。
今すぐこの男を撃ち殺してやりたかったがそういうわけにもいかない。
仲間二人が子供に向けて牽制するように銃をかまえているが彼らには目もくれず青い瞳はまっすぐこちらをみつめている。
少年が一歩踏み出したのを見て男につきつける銃を見せつけるように動かした。
「銃を下ろして臨也さんから離れて下さい。」
「けっ・・なんでガキに従わなきゃいけねーんだよ」
「あなたがたのことは、リーダー含め最低三人は殺さず生け捕りにしろと命令されています。ただし、言葉さえ話せれば後はどんな状態だろうと構わない、と」
少年は静かに、しかしよく通る声で言う。
その内容はやはりその容姿と、声とまったく合っていない。
「僕にはあなたがたを生かしたままで最大限の恐怖と痛みを味あわせる技術があります」
「は・・・?何言ってんだ」
「警告しているんです。・・もう一度言います。さっさと臨也さんの傍から離れろ」
人形のような無表情と平坦な声を崩さなかった少年の声と目に静かな怒気がこもる。
激昂したり怒鳴りつけたりこそしないが、目の前の子供がひどく怒っているらしいことに今更気がついた。
そしてその殺気がどう考えても普通でないことにも。
他の二人もそのことに気がついているのか青い顔でじっと銃を構えたまま動かない。
このガキ・・・なんなんだ。
いや、ちょっと待て。『最低三人は殺さず生け捕り』って、じゃ、じゃあ、他の仲間はどうなったんだ・・・・っ
こみあげてくる寒気に背筋が震える。
未だ部屋の外からは何の物音もしない。血塗れで、しかし無傷の子供。仲間の銃。そこから導き出される結論はあまりに狂気じみていて信じようにも信じられない。信じたくない。
まさか、本当にこんなガキが一人で10人以上、あんな短時間で・・・・・
銃声が響いた。
作品名:GUNSLINGER BOYXIV 作家名:net