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俺のものじゃない

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飴色の夕焼けが町々の狭間に沈んでいく頃、俺は円堂と部室にいた。
 いつも側にいる豪炎寺と鬼道は先に帰っている。
 他の部員もとっくのとうに。

 今、俺は円堂と二人きり。

 そんな事を考えたら少しだけ緊張した。

「あのさ、風丸……」
「え、な、何だよ?」

 声が上ずる。心臓が跳ねる。
 何で今更こんなに意識してしまっているんだろう。
 いつもと変わらない。
 俺の隣に円堂がいて、円堂の隣に俺がいる。

 いつもと変わらない。
 これから先も変わるはずのない俺のポジション。

「俺、秋と付き合う事に、なった」
「――え?」

 変わる事のない関係だと信じていた。
 幼馴染と言う不変的な関係のまま。
 
 そう、変わらない。
 変わるはずがない。

 俺達はただの幼馴染だ。

 どうやって家に帰ってきたのか分からない。
 でも、心にも無い事を口にしてきたのは覚えている。

『おめでとう。良かったな。お似合いじゃないかお前ら』

 その時の円堂の笑顔も、覚えている。

 サッカーやっている時も、好物のカレーやラーメンを食べている時とも違う、優しくて少し大人びた顔。

 ああ、だから俺はあんなに緊張したのか。

 円堂は変わってしまった。
 一人の男として木野を守ると決めたその時から。

 なあ、円堂、小さい頃に二人で冒険したよな。
 その時の約束、お前は忘れてしまったのか……?

 まどろむ俺を洗剤の香りが濃く残るシーツが包んでくれた。

 半濁した意識の中に声が響く。
 懐かしい声だ。
 子供特有の男とも女とも付かない高い声。
 目を開けると、円堂がいた。
 正確には小さい頃の円堂が。
 屈託の無い笑顔で話しかけてくる姿を見て、今と全く変わらないな、なんてぼんやりと思った。

「ちろた! 起きろよ、ちろた!!」
「なんだよまもる……」
「冒険しようぜ! 俺、秘密基地見つけたんだ!!」
「ひみつきち?」
「すっげーだろ! ほら、早く!」

 伸ばされた手に触れようとした瞬間、世界が崩れた。

「……っえんどう!!」
「ごめん、風丸」

 いつの間にか小さい円堂が今の円堂に変わっていた。
 その隣には見覚えのあるシルエット。

「や、め……」
「俺は、秋と」
「やめろ!!」

 耳を塞いでもそれは聞こえた。
 まるで脳に直接届けられたみたいに鮮明に。

「付き合う事になった」

 壊れた。世界が。俺達だけの世界が。
作品名:俺のものじゃない 作家名:美華