俺のものじゃない
覚醒した頭は、血管の通う音も、心臓の高鳴る音も、息の切れた声も、窓の外の鳥の鳴き声も、何一つ拾ってくれなくて、ただただ円堂の言葉を反芻させた。
「しょせん、ままごとはままごとだよな……」
円堂は、きっともう忘れただろう。
あんな小さい頃の事など。
俺は身支度を整えて部屋を出た。
「風丸!」
「なんだよ円堂」
開口一番、風丸。風丸。
そう言うところは変わっていない。
何故かほっとした。
「秋がお願いがあるってさ」
「……俺に?」
円堂の後ろに隠れていた木野が顔を出す。
一般的には木野は可愛いの部類に入るのだろう。
顔立ちも仕草も、しっかり者なところなんかも後輩には受けていたっけ。
でも、今の俺には木野の全てが媚びているようにしか見えない。
円堂に可愛いと思われたくて一生懸命な女の子。
健気じゃないか。
だけど、俺には木野の存在が許せない。
コイツさえいなければ……!
そんな事を考えてしまう自分が嫌だった。
「それで、お願いって?」
「あ、あのね」
言い辛そうに口をもごもごさせる木野が可愛らしくて腹立たしかった。
「あの、円堂君から聞いたの。昔、秘密基地を風丸君と作ったって」
「そんな事あったっけ?」
「なんだよ風丸忘れちまったのか? 俺達が小学校上がってすぐの――」
「ああ、あれか。それで、それがどうかしたの?」
思わず冷たい声が出てしまった。
咄嗟に口を押さえたが、どうやら二人とも気付いていないようだ。
この鈍感天然カップルめ。
木野は意を決したかのように、俺を睨みつける勢いで顔を上げた。
「……な、何?」
「私、秘密基地に行きたい!!」
「は……、えっと」
「駄目かな?」
円堂が不安そうに瞼を伏せる。