俺のものじゃない
結局、俺達は放課後に学校へ再集合し、秘密基地へと向かった。
木野の腕には子犬が抱かれていた。
俺の視線に気づいたのか、木野は聞いてもいない事をベラベラと喋った。
「この間、凄い雨が降ったでしょ? その時にこの子川に流されて、私はどうする事も出来ずにオロオロしてただけなんだけど、円堂君が真っ先に川に飛び込んでこの子を助けてくれたの。捨て犬みたいだし私の家で飼う事になったんだ」
円堂らしいな、なんて思ったら自然と笑みが零れた。
突如、先頭を歩いていた円堂が足を止めた。
「……ここだよな、風丸」
「何言ってんだよ。ここに決まって――」
絶句。
目の前には秘密基地、もといジャングルが広がっていた。
その光景に俺は茫然と、木野は唖然としてしまった。
何故か円堂は腹を抱えて大爆笑していた。
俺は思った。
俺の大事な場所がまた一つ無くなった。
円堂との思い出もこうして少しずつ何かに隠されてしまうんじゃないかと。
絡む蔦を除ければ何とか中に入れた。
「結構広いねー」
「だろ? 風丸と色々改造したからさ」
「大変っだったなー。蚊に喰われるは鉢の巣が落ちてくるは……」
そうだ、ここで俺達は約束したんだ。
この秘密基地を誰にも言わない。
ずっと一生隣にいる。
円堂は、もう忘れたんだな。
涙なんか出ない。
ただ、胸が痛かった。
隣の円堂は子犬と戯れている木野を優しい眼差しで見つめている。
俺が見ていた事に気付くと、照れ臭そうに笑った。
俺達は木野を中に残して、二人で外に出た。
「ごめんな、風丸」
「え?」
「秘密基地の場所、秋に教えちまった」
「ああ……良いさ。そんなの」
そんなの、もうどうでも良い。
「秋に知って欲しかったんだ。風丸の事。風丸は俺の大事な幼馴染だからさ」
そう俺は幼馴染。
それ以上も以下も無いオサナナジミ。
「円堂、幸せか?」
円堂はきょとんと目を丸くさせ、次の瞬間、またあの顔で笑った。
大人っぽくて、男らしくて、優しい笑顔。
「当たり前だろ」
何で、その当たり前が俺には無いんだろう。
円堂と当たり前の幸せを望んだのに、何故、叶わなかったのだろう。
「風丸、俺さ、お前がいてくて良かった」
円堂の言葉は毒だ。
俺の心をかき乱して、一喜一憂させる。
「円堂くーん」
「なんだよ秋」
木野の呼びにすぐ駆けつける円堂を背後に、俺はそっと涙を流した。
俺の方がお前と一緒にいた。
俺の方がお前の事を知っている。
俺の方がお前の事を愛している。
思い出が走馬灯のように駆けていく。
円堂と初めて出会った時。
円堂と初めて喧嘩した時。
円堂と一緒の時の事、俺はほとんど覚えている。
なあ、円堂。
お前言ったよな。
ずっと一緒だって。
絶対に離れ離れにならないって。
あれはウソだったのか?
後ろの幸せそうな声を聞く度に胸が破れそうだった。