こらぼでほすと 襲撃10
刹那が出かけて、丸一ヶ月もすると、親猫のほうも落ち着いた。やっぱり、寺で出張ママをやっている。店のほうも通常営業に戻り、たまに、親猫も手伝いに出ている。
店に出た翌日、ロックオンが、うっかり寝坊した。慌てて、朝の支度をしていると、三蔵が顔を出す。
「どうした? 」
「寝坊しちまって・・・ちょっと待っててください。まだ、悟空の弁当が。」
と、慌てて台所を走り回っているロックオンに、「俺が弁当のほうはしてやるから、メシのほうに専念しろ。」 と、手を出してきた。フライパンを手にしているところを見ると本気らしい。
「じゃあ、お願いします。」
「おう。適当でいいぞ? 食えりゃなんでもいい。」
冷蔵庫から何かを取り出して、がたがたと三蔵がやりだしたので、ロックオンは戸棚からワカメを取り出して水につける。どういう裏技を使ったのか、朝飯の支度前に、弁当は完成していた。
悟空は、朝のお勤めの後片付けをしていたから、このドタバタは知らない。着替えて居間に顔を出したら、いつものように卓袱台の前に、坊主は座って新聞を読んでいたし、ロックオンは、料理を並べていたからだ。
いつものようにご機嫌で、お昼休みに弁当を開けて、茫然とした。いつも、ちまちまとしたおかずが配色良く入っているはずのママお手製弁当が、どういうわけか四色の色で構成されていたからだ。
白いメシと、どう見ても普通のロースハムの薄切り三枚、それから、山のほうに詰まっている焼いたピーマン、さらに、白いメシの上にかつおぶし、これだけだ。
・・・・なんじゃ、これは?・・・
寝坊したのだとしても、この配色は、何事だ? 具合でも悪いのか? と、悟空は首を傾げた。いつも栄養バランスとか見た目の楽しさとか説明しているママにしては、あまりにもお粗末だ。いや、バランスとして考えたら、動物性のたんぱく質のハムと野菜のピーマンだから、いつも通りといえば、いつも通りだが、大量すぎるピーマンが、なんかおかしい。白メシの中に、なんか埋まっているのか、と、思ったが、ただの白メシだ。なんだろ?、なんだろ? と、思いつつ午後からの授業を受けて、即効で帰った。
「おかえり。」
ごちそうさまと弁当箱を、ママに返したのだが、言い出せなくて困った。なんか訳があるなら、聞いたほうがいいのかどうか、珍しく悟空でも考えたのだ。
「今日の弁当さ。いつも違ってただろ? 」
すると、相手が話題を切り出した。
「うん。」
「俺、寝坊しちまって、三蔵さんが手伝ってくれたんだよ。あの人、普段、全然だけど手際いいんだな? 悟空。すいすいっと作ってくれたよ。」
「あーうん。」
ようやく合点はいった。なるほど、うちの保護者かい、確かに、焼いたピーマンは好きだ。だからといって、それだけを大量に詰めてどうすんだ? と、思いつつ、居間で寝転がっている坊主の背中に蹴りは入れておいた。
それから、また数日して、とうとう、とんでもないのが爆弾を投下した。その日は、三蔵が檀家廻りに出ていて留守だった。もちろん、悟空は、日中は大学だ。そろそろ夏休みだから、三蔵と本山に出かけるという話はロックオンも聞いていた。そうなったら、通称「親猫の実家」なトダカ家で過ごすように、誘われている。
「暑いからって冷たいものばっかだと身体によくないしなあ。」
卓袱台でスーパーのチラシで安売りをチェックしつつ、本日の献立を考えている。暑くても、ここの住人は夏バテなんてしないので、食事はいつも通りの量だが、季節柄、涼しい料理に走りがちだ。
何を作ろうか、と、考えていたら、電話が鳴った。ここの家の電話は、当初は、ロックオンが聞いてもわからなかったので留守電にしていた。だが、すっかり馴染んだ今は、取次ぎとか伝言ぐらいはできるようになったので取っている。
いつものように、寺の名前を言ったら、「ロックオン・ストラトス? 」 と、女性の声で尋ねられた。
「どちらさまですか? 」
自分宛なんてのはないので、ちょっと用心する。組織や吉祥富貴の連中は、個人の携帯端末に連絡してくるからだ。
「王留美です。お久しぶりですね。」
「お嬢さん? なんで、寺なんかに? 」
「もちろん、あなたに依頼したいことがあるからです。」
盲点というのは、どこにでもある。三蔵の寺にある電話なんてものは、管理対象外のブツだ。ロックオンの携帯端末には、アクセス制限をかけてあるから王留美からの連絡は自動的にシャットアウトされる。だが、寺の電話なら、それはない。それに気付いた王留美は、そこへ連絡してきた。あれから三ヶ月しても、ロストしたアレルヤの行方が掴めていないからだ。
本宅のサーバーだけでなく財閥の主要な組織のサーバーまで、サイバーテロの被害を蒙ったものだから、システムの復旧だけでも大変な作業になった。もちろん、そのテロは、どっかののほほん大明神様の仕業だが、それを追求できる証拠なんてものはない。ついでに言うと、別のルートで、王財閥の情報をコピーされた節も見受けられた。
そんな状態の三ヶ月だったわけで、組織からの依頼なんかに構っていられなかったのだ。
「俺に? 」
「アレルヤが行方不明です。三ヶ月前に消息を絶ち、そこから所在が掴めません。ただし、『吉祥富貴』から生存確定の報せは受けています。・・・・おわかりですね? ロックオン・ストラトス。彼らは、その所在を知っていて、隠しているのです。組織から、その情報を奪取するように、こちらに依頼されています。」
いきなり言われても理解に苦しむ内容だ。ただ、二ヶ月前の刹那の言いたかったことは、これだったか、と、合点は言った。たぶん、アレルヤの所在を、『吉祥富貴』の総元締めのキラに確かめに来たのだ。
・・・・つまり、奪還に向かったのか? あいつ・・・・
いや、そうではないだろう。そういう理由なら、キラたちが快く送り出す理由がない。その前の営業休止も、これに関わることだったとしたら、それもわかる。ラボにキラたちが集結して、アレルヤの行方を捜していたのだと思われた。だから、ラボから自分は追い出されたのだ。
「・・・・ロックオン、聞こえています? 」
ちょっと自分の考えに沈んでいて、王留美のことを失念していた。聞いてる、と、返事すると、情報の奪取を依頼された。
「移動などのフォローは、こちらで全面的にさせていただきますので、早急にお願いいたします。」
「けどな、お嬢さん、たぶん・・・いや、とりあえず事実確認して、それからにする。」
「わかりました。情報の受け渡しは如何様に? 」
「あんたのエージェントに接触させてくれ。」
「わかりました。」
引き受けたものの、それが事実だとしたら、たぶん、無理じゃないか? と、ロックオンは苦笑した。わざわざ、自分に報せないようにしていたのだから、それなりの対策はされているだろう。何より、その時期、降りて来たフェルトと刹那が何も言わなかったのだ。キラが大きな釘を刺したに違いない。ある意味、自分は人質みたいなものだ。情報を奪ったら、自分を害するなんて言われたら、刹那も言えないだろう。あの時、体調を崩していたから、余計に脅しは強力だったに違いない。
店に出た翌日、ロックオンが、うっかり寝坊した。慌てて、朝の支度をしていると、三蔵が顔を出す。
「どうした? 」
「寝坊しちまって・・・ちょっと待っててください。まだ、悟空の弁当が。」
と、慌てて台所を走り回っているロックオンに、「俺が弁当のほうはしてやるから、メシのほうに専念しろ。」 と、手を出してきた。フライパンを手にしているところを見ると本気らしい。
「じゃあ、お願いします。」
「おう。適当でいいぞ? 食えりゃなんでもいい。」
冷蔵庫から何かを取り出して、がたがたと三蔵がやりだしたので、ロックオンは戸棚からワカメを取り出して水につける。どういう裏技を使ったのか、朝飯の支度前に、弁当は完成していた。
悟空は、朝のお勤めの後片付けをしていたから、このドタバタは知らない。着替えて居間に顔を出したら、いつものように卓袱台の前に、坊主は座って新聞を読んでいたし、ロックオンは、料理を並べていたからだ。
いつものようにご機嫌で、お昼休みに弁当を開けて、茫然とした。いつも、ちまちまとしたおかずが配色良く入っているはずのママお手製弁当が、どういうわけか四色の色で構成されていたからだ。
白いメシと、どう見ても普通のロースハムの薄切り三枚、それから、山のほうに詰まっている焼いたピーマン、さらに、白いメシの上にかつおぶし、これだけだ。
・・・・なんじゃ、これは?・・・
寝坊したのだとしても、この配色は、何事だ? 具合でも悪いのか? と、悟空は首を傾げた。いつも栄養バランスとか見た目の楽しさとか説明しているママにしては、あまりにもお粗末だ。いや、バランスとして考えたら、動物性のたんぱく質のハムと野菜のピーマンだから、いつも通りといえば、いつも通りだが、大量すぎるピーマンが、なんかおかしい。白メシの中に、なんか埋まっているのか、と、思ったが、ただの白メシだ。なんだろ?、なんだろ? と、思いつつ午後からの授業を受けて、即効で帰った。
「おかえり。」
ごちそうさまと弁当箱を、ママに返したのだが、言い出せなくて困った。なんか訳があるなら、聞いたほうがいいのかどうか、珍しく悟空でも考えたのだ。
「今日の弁当さ。いつも違ってただろ? 」
すると、相手が話題を切り出した。
「うん。」
「俺、寝坊しちまって、三蔵さんが手伝ってくれたんだよ。あの人、普段、全然だけど手際いいんだな? 悟空。すいすいっと作ってくれたよ。」
「あーうん。」
ようやく合点はいった。なるほど、うちの保護者かい、確かに、焼いたピーマンは好きだ。だからといって、それだけを大量に詰めてどうすんだ? と、思いつつ、居間で寝転がっている坊主の背中に蹴りは入れておいた。
それから、また数日して、とうとう、とんでもないのが爆弾を投下した。その日は、三蔵が檀家廻りに出ていて留守だった。もちろん、悟空は、日中は大学だ。そろそろ夏休みだから、三蔵と本山に出かけるという話はロックオンも聞いていた。そうなったら、通称「親猫の実家」なトダカ家で過ごすように、誘われている。
「暑いからって冷たいものばっかだと身体によくないしなあ。」
卓袱台でスーパーのチラシで安売りをチェックしつつ、本日の献立を考えている。暑くても、ここの住人は夏バテなんてしないので、食事はいつも通りの量だが、季節柄、涼しい料理に走りがちだ。
何を作ろうか、と、考えていたら、電話が鳴った。ここの家の電話は、当初は、ロックオンが聞いてもわからなかったので留守電にしていた。だが、すっかり馴染んだ今は、取次ぎとか伝言ぐらいはできるようになったので取っている。
いつものように、寺の名前を言ったら、「ロックオン・ストラトス? 」 と、女性の声で尋ねられた。
「どちらさまですか? 」
自分宛なんてのはないので、ちょっと用心する。組織や吉祥富貴の連中は、個人の携帯端末に連絡してくるからだ。
「王留美です。お久しぶりですね。」
「お嬢さん? なんで、寺なんかに? 」
「もちろん、あなたに依頼したいことがあるからです。」
盲点というのは、どこにでもある。三蔵の寺にある電話なんてものは、管理対象外のブツだ。ロックオンの携帯端末には、アクセス制限をかけてあるから王留美からの連絡は自動的にシャットアウトされる。だが、寺の電話なら、それはない。それに気付いた王留美は、そこへ連絡してきた。あれから三ヶ月しても、ロストしたアレルヤの行方が掴めていないからだ。
本宅のサーバーだけでなく財閥の主要な組織のサーバーまで、サイバーテロの被害を蒙ったものだから、システムの復旧だけでも大変な作業になった。もちろん、そのテロは、どっかののほほん大明神様の仕業だが、それを追求できる証拠なんてものはない。ついでに言うと、別のルートで、王財閥の情報をコピーされた節も見受けられた。
そんな状態の三ヶ月だったわけで、組織からの依頼なんかに構っていられなかったのだ。
「俺に? 」
「アレルヤが行方不明です。三ヶ月前に消息を絶ち、そこから所在が掴めません。ただし、『吉祥富貴』から生存確定の報せは受けています。・・・・おわかりですね? ロックオン・ストラトス。彼らは、その所在を知っていて、隠しているのです。組織から、その情報を奪取するように、こちらに依頼されています。」
いきなり言われても理解に苦しむ内容だ。ただ、二ヶ月前の刹那の言いたかったことは、これだったか、と、合点は言った。たぶん、アレルヤの所在を、『吉祥富貴』の総元締めのキラに確かめに来たのだ。
・・・・つまり、奪還に向かったのか? あいつ・・・・
いや、そうではないだろう。そういう理由なら、キラたちが快く送り出す理由がない。その前の営業休止も、これに関わることだったとしたら、それもわかる。ラボにキラたちが集結して、アレルヤの行方を捜していたのだと思われた。だから、ラボから自分は追い出されたのだ。
「・・・・ロックオン、聞こえています? 」
ちょっと自分の考えに沈んでいて、王留美のことを失念していた。聞いてる、と、返事すると、情報の奪取を依頼された。
「移動などのフォローは、こちらで全面的にさせていただきますので、早急にお願いいたします。」
「けどな、お嬢さん、たぶん・・・いや、とりあえず事実確認して、それからにする。」
「わかりました。情報の受け渡しは如何様に? 」
「あんたのエージェントに接触させてくれ。」
「わかりました。」
引き受けたものの、それが事実だとしたら、たぶん、無理じゃないか? と、ロックオンは苦笑した。わざわざ、自分に報せないようにしていたのだから、それなりの対策はされているだろう。何より、その時期、降りて来たフェルトと刹那が何も言わなかったのだ。キラが大きな釘を刺したに違いない。ある意味、自分は人質みたいなものだ。情報を奪ったら、自分を害するなんて言われたら、刹那も言えないだろう。あの時、体調を崩していたから、余計に脅しは強力だったに違いない。
作品名:こらぼでほすと 襲撃10 作家名:篠義