こらぼでほすと 襲撃10
「だって、ママを心配させるなんてさ。ティエリア風に言うと、『万死』だもん。寝込んじゃったら、刹那が心配するもんっっ。今年は、まだプールも海も行ってないのにぃぃぃ。」
まあ、いろいろ方向性には問題があるのだが、刹那が心配することをした、刹那の表情を曇らせることをした、という点において、大明神様はお怒りであるのだ。
歌姫様が戻るまで、スタッフは全員、接触禁止を申し渡された。そのメールを見て、「早すぎるぜ、王家のねーちゃん。」 と、悟浄も呆れる。
「これで、当分、ママは使い物にならんことも決定だ。・・・余計なことを・・」
珍しく鷹も怒っている。せっかく隠し通した二ヶ月の苦労は水の泡だ。もう少し順序立てて教えるつもりだったからだ。じじいーずとしては、そちらを担当するつもりで、その話は進めていた。歌姫が事実を説明するが、その後のフォローは、じじいーずでするつもりだった。
「しかし、怖れを知らんな? 王留美。」
虎は、怒るより呆れている。歌姫不可侵な不文律というものが、なぜ、存在するのか理解していないのが不思議だ。AEUやユニオン、人革連ですら、敢えて接触して来ないのには、それなりの訳があるというのに、それを無視している。
「チャレンジャーってとこか? 」
「ハイネ、それって、うちのオーナーの代わりをやろうとしているってことになるんですよ? そんなもの・・・」
はっと鼻で笑って八戒も一杯飲んでいる。
店は開店しているが、予約のない日なので、フロアーで酒盛りに発展しているのだ。キラとアスランは指名がないし、いろいろと動いているから休んでいる。
「一時、世界を牛耳ったとして、それで何も変らないんだが、それが理解できるほどの年齢ではないということだろう。」
王留美の年齢からして、そういうことじゃないか? と、トダカが分析する。思い通りになったとしても、それを維持するには、王家の力だけでは難しいし、世界との均衡というものがある。ゼロサムゲームは、所詮、一時的なものだ。歴史が、それを証明している。長い目で見ると、早急な対応は、反動も大きい。アレルヤを今、奪還すれば、CBが存続していることもバレる。十分な準備期間もないままに、また、世界に追い駆けられることになったら壊滅してしまうだろう。それもあって、手を出していないのだが、王留美は、そんなことも考えていないらしい。
「挫折知らずのセレブリティーの限界だろうな。」
「てか、リタイヤしたヤツを巻き込むな、だ。」
「しかし、疑問なのは、王留美の求める最終的利益がわからないってことだな? なぜ、CBに加担して世界を変革したいんだ? 世界を牛耳るためか? 」
「コーナー家の末路を知っていて、同じ轍は踏まんだろ? 」
昔からの繋がりがあるのだろうが、それにしても、王家のCBとの協力体制は強固だ。何か、王家に利益があるから、というのはわかるが、それにしてものめり込んでいるとは思う。資金援助にしたって、生半可な数字ではないのだ。それに見合うものがなければ、財界に在するものは援助しない。
「軍需産業か? 」
「それも傘下にはある。・・・それだけじゃないだろうな。」
それだけでない何かがあるのだろうと、虎は思っている。王家の当主が替わってから、動きは活性化しているからだ。わざわざ、自らでエージェントをやるほどの理由となると、わからない。
「あちらの動向は抑えておくさ。キラが、ロクロクちゃんを、あっちのマザーにぶちこんだからな。情報は取り放題だ。」
本来、各国や連合の組織なんかに配置しているロクロクちゃんを、ハイネが頼んで、わざと王家のマザーにも配置させた。全制御型システムなので、有事の際にはマザーを支配することも可能だし、普段は、こちらからのアクセスをセキュリティーにひっかからずに可能にする優れものだ。難点は、容量がでかいので、普通の財閥くらいのマザーでは、容量不足を引き起こす。
「キラが言うには、システムの主要部分だけのミニロクちゃんしか置けなかったらしいけど、運用には問題ないらしい。・・・てか、あいつ、何を付属してんだろ? 」
「そりゃ、ハイネ。キラだぜ? いきなりアクションゲームとか、いきなりフィッシングゲームとか、各種ゲーム満載なんだろ? 」
「ねぇーよっっ。」
悟浄には、システムの複雑な話なんてものは皆無だ。混ぜっ返すような冗談を言うぐらいが関の山だ。
「心配してんだろーなー。」
ぽつりと鷹が、中空を睨みつつ、呟いた。
「おかんだからな。」
虎も、そう付け足して、一口、酒を含む。
「こればっかりはね。」
トダカが苦笑する。
「迷惑な話だ。」
ハイネも、さらに付け足して、となりの悟浄のグラスとカチンと、自分のグラスを当てる。
「抱え込むタイプですからね。」
八戒が、しみじみと、そう締め括った。親猫は、そういう性格なので、今頃、心配して眠れなくなっているだろう。アレルヤのことだけではない。それを呑み込んで旅に出た刹那のことも、ひとり、組織に残っているティエリアのことも、全員のことを心配しているに違いない。リタイヤして、何もしてやれない無力さを自覚するたびに、辛いと思う。それを知っているから、ここにいるメンバーは同情するし心配する。見守って、それらを全部呑み込んで、待っているには親猫は若すぎる。
「あの性格、軽くするクスリを開発してくれたほうがいいような気がするぞ?」
「それも、ねぇーよっっ。」
しんみりした話を打破するため、悟浄とハイネで応酬する。歌姫の接触禁止が解かれるまでは、それを想像して、心配するしかないのが、スタッフにしても歯痒いところだ。
作品名:こらぼでほすと 襲撃10 作家名:篠義