センセイアタック 1/8
5番手:天城雪子
「やっと私に回ってきたね」
「…雪子、もしかしてすごーく楽しみにしてた?」
「うん♪」
「だよね……」
幼なじみは少し疲れた声で言った。
「天城の武器攻撃って、威力こそ小さめだけど遠距離攻撃だからさ。シャドウとの距離さえ気を付ければいいセンいくと思うんだ」
「うん、まかせて」
雪子はそう言うと、扇子を構えた。立ち姿が日本舞踊のそれで、こういうときでも優雅だなぁ、と千枝がぼんやりつぶやく。
りせも女の子が先頭だからか、いつもより慎重にシャドウの位置を探り、
「――――はッ!!」
鋭い声が一閃。
「雪子やったじゃーん!」
「さっすが雪子先輩!完二達も見習わなきゃー」
「るせぇな!!」
「そんな大げさなことじゃないよ」と雪子は照れながらも、どこか満足気だった。
「じゃあ、しばらく雪子に任せてみようかな」
リーダーの言葉にも「うん」と自信をにじませる。
「りせちゃん、次の相手はどこ?」
「すぐそこだよ!」
視界にシャドウをおさめると、扇子を開き水平に構える。
頼もしく見える背中を眺めながら、陽介が後ろでコソッと話しかけた。
「天城の攻撃ってさ、なんかあれに似てねぇ?」
「あれって何さ?」と千枝。
「犬にフリスビー投げて遊ぶやつ」
「はぁ?」
水平に飛ばす投げ方がフリスビーに似て見えたらしい。おまけに、投げた先に動物じみた形のシャドウがいたものだから、
「シャドウがパクッて扇子キャッチしたらおもしれえかな〜って」
「何それ…」
軽く呆れる千枝。何バカなこと言ってんだかこい「……………………ぶふっ」
え?
バッと声の方向を見ると、さっきまでカッコよく扇子を構えていた雪子が腹を抱えてうずくまっていた。
「って雪子先輩!シャドウがこっち見てるっ!」
「うわ完全に爆笑スイッチ入ってるし!は〜な〜む〜らぁ〜!!」
「うえぇ、俺のせい!?」
結果:雪子戦線離脱
6番手:白鐘直斗
「自分で言うのもどうかとは思いますが……最初から僕がやればよかったのでは?」
「俺も今そう思う…」
カチンと、直斗が銃に装填し終えた音がした。
銃なら、遠距離から一番安定感をもって攻撃できる。「そういうことです」直斗は軽く微笑んで仲間達に言った。
「僕についてきてください」
十分後。
「なぁ直斗、もうちょっとチャッチャと進んでもよくねえ?」
「花村先輩、勝手に行かないでください」
自分を追い越して先に進もうとする陽介を、直斗は腕を引いて止めた。
直斗自身は通路の壁に体をぴたりと貼りつかせ、曲がり角の向こうをうかがっている。ポケットから手鏡を出したから、直斗もそういう女らしいところが……かと思ったら、鏡に映して通路の先を覗き見ていた。
「大体、皆さん無防備に進みすぎなんです。罠の一つや二つあってもおかしくはないでしょう、基地なんですから」
「や、ちょっと鍵開けんのに行ったり来たりしたぐらいで…罠なんてなかったぜ?」とは完二。
「何故ですか、ラボですよ?秘密結社ですよ?」
「とは言っても直斗の心から生まれた場所だからな…」
直斗の素直さがそのまま表れたから、罠というものがなかったんじゃないか―――そう、褒める意味でリーダーは続けようとしたのだが、
「ないんですか?赤外線レーザーとか、スライド床の落し穴とか、」
「な、直斗?」
「あと僕ならあの辺に迎撃用のレーザーガンを仕掛け」
「直斗ーっ?」
なんかスイッチ入った!?
「な、」
「直斗くん、皆!」さえぎって、りせの切羽詰まった声が響いた。
「シャドウがそっち向かってる!」
聞くと同時に、直斗の視界にシャドウが現れる。
「!、花村先輩、5時の方向!」
「5時ってどっちーー!?」
結果:ノリ過ぎ
「…で、結局俺になるのか」
「スミマセン……」
先制アタック、代理…全滅。
「しゃーねえ、相棒の目ぇ治るまで探索はお預けにすっか」
「…それも、なぁ…」やはりブランクを開けるのが心配なのか、リーダーが渋る。自分のせいだから余計にだ。
「だーいじょうぶだって、」そんなリーダーの心情を察してか、千枝があっけらかんと笑った。「体なまんないよーに、テレビの外でも修業してるからさ」
「そうっスよ!」
「僕も射撃訓練ならできますし」
口々に言ってくれる仲間達に、リーダーはぽかんと呆気にとられる。ふと横を見ると、彼の相棒が「な?」と片目をつぶってみせた。
…うん。
大丈夫だ。皆、自分が心配しているよりも強いんだから。
「わかった。じゃあ――」
「ねぇ先輩、」
不意にりせの声が割り込んだ。
「思ったんだけどぉ、ここ地下4階までのシャドウって、もう弱くなってて……あたし達がすぐ側にいても気づかないよね?」
「だからギリギリまで近づいてアタックすれば、遠近感って関係ないよね?そこで稼げばよくない?」
――――――――あ。
END
作品名:センセイアタック 1/8 作家名:えるい