センセイアタック 1/8
2番手:里中千枝
「無茶はするなよ」
「平気だってばリーダー」
千枝はキックの素振りに余念がない。
「こっち向かってきたトコ蹴ればいいんだから。サッカーボールと同じだよ」
「サッカー。……だったらもっと、足の向きをこう―――」
「おぉい、そこのサッカー部〜」
「せーの、どーん!!」
千枝の蹴りが、ふわふわ浮かぶシャドウの真ん中に突き刺さった。
「やった成功!」
「千枝、すごい!」
すかさずリーダーのマハジオンガと雪子のマハラギオンが炸裂、シャドウが黒い霧となって消えた。
「ふっふ〜。ダレカサンとは一味違うのですよー」
「〜〜〜ッ、くっそ〜」
「お見事」
リーダーからお褒めの言葉を賜り、えへへっ、と嬉しそうに顔をゆるめる。
「やっぱり千枝はすごいね」
「雪子のマハラギオンもすごかったよー、…って、またシャドウいた!」
部屋の隅に黒い影。今度は溶けたスライムのような平べったいシャドウが、地を這って突進してきた。
「よぉっし!もう一発!」
勢いをつけて蹴りを繰り出した千枝の足が――
ぶにっ。
シャドウを踏んづけた。
「え?あ、わわわ」
そのまま乗っかった。
「う、うわわ、これどーしよどーしよ降りられないーっ!!」
「千枝ーーーーーっ!!」
――――そのまま千枝は、シャドウに乗ったままダンジョンの奥へと消えていった。
結果:低すぎる標的は蹴りにくい。
3番手:巽完二
「完二の盾も…不向きじゃないのか?」
大剣ほどのリーチはなく、かといってクナイのように軽々振り回せる重さでもない。
「や、俺考えたんスよ。遠くから攻撃できたら問題ないっスよね?」
「たしかにそうだが……盾で?」
「盾でっス」
「何言ってんの完二ぃ?」
「久慈川もいいから見てろって。それよりシャドウいねえか?」
「んー…いるよ。その角曲がってちょっと先」
「っしゃあ!」
シャドウの位置を確認し、丸い盾を握りなおす。
「…あ、もしかして巽君…」
「え、直斗くん、完二くん何する気かわかった?」雪子が目を輝かせた。
「たぶん…でもそれは…」
「ぅらああぁぁっ!!」
次の瞬間。
完二が盾をぶん投げた。
「うげっ、まじ?」
ガアン、とシャドウに盾がぶち当たる。
「っしゃあ!!」
「なんつぅ力技…」
「まぁ成功は成功かな」
苦笑するリーダー達は戦闘態勢に入ったシャドウと向き合い、
そこで後輩の声を聞いた。
「あ゙!今投げちまったから俺武器ねえ!」
「ばかーーーーっ!!」
結果:盾はシャドウの真後ろに落ちてました。
4番手:クマ
「んもーぅ、ミンナダメダメだクマねー。もっとクールでフレーバーにいかないと」
「クレーバーな」どこのお菓子だ。
「クマ君も近接武器ですが…その様子だと、何か方法を考えているんですね」
「ムッフッフ。キンセツーにはキンセツーのタタカイ方があるクマよ〜」
クマはピッコピッコと足音をたてて仲間達の正面に躍り出ると、
「名付けて!『ドキッ☆女だらけのかくれんぼ大作戦〜〜シャドウに見つかる前にセンセイアタックしちゃえばいいクマ〜〜』クマ☆」
「どこの昭和のテレビ見やがった!!つかまんまじゃねーか!!」
「それよりクマ君が入ってる時点で女だらけじゃないし」
ツッコミどころが多すぎた。
「行くクマよ〜」
作戦名はともかく、シャドウの後ろからこっそり近づくのはいい戦法だし。クマならシャドウの気配も感じ取れるから、と優しいセンセイのフォローにより、クマの提案は実行に移された。ただし『女だらけ』のパーティ編成は却下された。
クマはそっと様子をうかがいながら、そろりそろりとシャドウに近づいていく。「ヌキアシ〜、サシアシ〜、」と微妙に聞こえてくるが。
うまくシャドウが後ろを警戒していないタイミングを計ったのか、都合がよすぎるほどこちらに気づく素振りがなかった。
「ヌキアシ〜、サシアシ〜、」
もしかするとクマならイケるかも――
ピッコ
(……………ん?)
ピッ、コッ、ピッ、コッ
「なあ陽介、これ………」
「言うな。今同じこと考えてっから」
ピッコッ♪
――――――シャドウが振り返った。
結果:クマの足音はうるさすぎた。
作品名:センセイアタック 1/8 作家名:えるい