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『魔竜院 THE MOVIE』AURA二次創作

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 結局、俺たちが学校に復帰したのはそれから三日後のこと。
 クラスの雰囲気に関しては、変わった部分もない。強いて言えば、子鳩さんに少し元気がない程度だろうか。
 もしかしたら、俺たちがいなかったことを寂しく思ってくれたのかも知れない。
 復帰してすぐ、俺は忙しなく動いていた。授業中の時間すら利用して、ノートに様々なことを書き散らした。
 膨大な量の『魔竜院伝承』設定資料編纂。これは良子の手も借りながら進められた。
 闇の彼方に葬りたい歴史だと感じていた。対面すれば傷が疼くかと思ったけれど、不思議なことに案外、平気だった。
 放課後も、休まず駆けずり回った。久米さんの手を借りた。無理な願いと思ったが快く承諾してもらえたのは幸運だ。それから、久米さんは知り合いらしいカード屋の店長にも手を回してくれた。
「面白いねぇ。これが新しく都市伝説になれば最高だね!」
 久米さんの心から楽しそうな顔が印象的だった。
 引き続き、作業は続く。
 数人ばかり、妄想戦士の手を借りることになった。
「ほう……盟友よ。ついに我が英知に頼ることを覚えたか。だが、我は貸しとは思わぬ。友情とは、そういうものだろう?」
「木下キモい」
「任せろ、光牙。イグナイトの真力<マナ・パワー>を見せてくれる」
「マナ・パワー以外でお願いします」
「そして、飛霊。いよいよ、俺の出番か」
「鈴木はいいや」
「あふん」
 さて、俺たちが全ての作業を終えるのに一週間は経過していた。それでも想定よりは大分早い。
 久米さんに俺の『魔竜院伝承設定資料集』と記されたノートを渡す。
「おっけー、受け取ったよ。期待はしすぎないでね」
 それからまた半月、久米さんからの連絡で露店に赴くと、俺の望んだものは実体化されていた。
 トレーディングカード『魔竜院伝承』が完成していたのだ。
 久米さんに手伝ってもらったのは、メインキャラクターの絵の部分。ある意味でもっとも大変だ。俺と良子は主に文章面と監督的位置を担当し、妄想戦士たちには重要でないキャラクターや小物群のあれこれを担当してもらった。ところどころ、<現象界>あるいは<多元異世界ゼウスヘイム>や<暗黒聖遺物>といった言葉が見受けられたが、まぁどうせ俺の妄想だけじゃ不足だろうし、この辺りはご愛嬌と言ったところだ。
 ついでに言えば、俺だけの力では大した数が刷れないところを、良子の財力で結構な数が刷れることになった。
 マネーパワーでいろいろなことがカバー出来るという良子の主張に助けられた形だ。
 久米さんにはギャラを払うと言ったが、「アクセをつけて店を宣伝してくれればいいよ」と断られた。感謝しきりだ。
 完成したカードを良子とともに見せてもらう。
「うわぁ……」
「うん、いい感じ」
 時間はとんでもなく短期間。デザインに凝れたわけでもない、むしろ内容含めてとても粗い。けれど、完成品は完成品だったからこそ最高だった。
 妄想の具現化に俺たちは成功した。ありがとう青春。
 それから、子供たちに草の根で流行らせる作業が始まった。
 カードゲームに関するルールブックの制作は俺、付属の短編ストーリーである『魔竜院伝承 断章』については、良子が手慰みに書いていたらしいそいつを流用させてもらった。
 勿論、金なんて取れるわけがない。カード屋で抽選的に無料で配られることになった。ルールブックに関しては少量の配布だったが、少なくともカード屋範囲ではルールの浸透を確認出来た。
 無料配布というのが効いたのか噂が広まるのは案外早く、配布から月日が経たないうちに、学校内でもカードゲームについての話が聞けるようになった。
 昼休みに廊下を歩けば「魔竜院が」「斬竜刀の」「エリナ姫って」「佐藤はいい男尻」
 徐々に、魔竜院という名前は価値あるものとして浸透し始めていた。
 俺が満足して廊下を歩いていると、一通のメールが届いた。下級生の女の子だ。
 『あの最近消された動画の人って、先輩だよね。流行り先取りしすぎじゃない?』
 時代が俺に追いついてきたらしい。満足げにケータイを閉じる。
「ねぇ、一郎くんっ! あのゲームって一郎くんだよね」
 クラスに戻ると、子鳩さんの第一声。
 なぜか、子鳩さんは自慢のツインテールをやめ髪を下ろしていた。服も通常の制服に戻り、パッと見の印象は良子みたいになっている。意識したのだろうか。してるんだろうな。
「うーん、どうだろう。製作者だよね。むしろ」
 笑って答える。
「それはともかく、私たちずっと友達だよね!」
 上目遣いで手を握られる。やばい、すごくかわいい。
「そ、そうかもね!」
 俺は子鳩さんに圧倒されていた。
「一郎は、わたし専用……」
 いつの間に顕現したのか、良子が俺の腕を掴んだ。
「まとめて、一緒になっちゃおうよ! みんな大好きだぁ〜」
 子鳩さんのハーレム宣言であった。俺、そういうのどうかと思います。
「友達からなら、始めてあげてもいい」
 良子が子鳩さんに返答する。あれ、こいつ今まともに喋ってんのか?
 俺はハーレムから両手フラワーの天国を脱すると、大島の元に向かった。
「なぁ、これで解決したと思うか?」
 勝ち誇った顔で問うてみた。
「知らねーよ、バカ」
「カードゲームのレアカード要る?」
「要らねーし、やんねーっての。ウザいからさっさ散った」
 多分、大島みたいなやつがいるから、こういう変化の多いクラスでも何とか固定された基準が一つ存在出来るのかなと思った。孤高でいれば、なかなか綺麗な人間なのに勿体無い。
 クラスの雰囲気は変わっていた。子鳩さんと良子がめでたく友達になったからだろうか、子鳩さん支持層による非難の声は聞こえなくなった。
 さて、席へつこうと思ったところで、肩を叩かれる。どりせんだ。
「なるほど。これが『魔竜院効果』だね」
「上手いこと死んでください」
 褒めるつもりが罵ってしまった。
 いくつかの物語にオチはついても、人生の途中にエンディングなんかない。
 過去は変わらなくとも、その価値が変わることはある。そして未来はもっと不変だ。
 俺たちは様々な変化に囲まれながら、現在を過ごさなきゃならない。
 あらゆる価値、対人関係、立場、他のあれこれ、それから自分自身。全てが普遍ではなくて、どこかに譲れないものが存在する。
 自己であれ他者であれ、人の全てを受け入れることは不可能だ。
 だったら、今の俺に出来ることは何だろう。
「良子。普通のやり方って何だろうな?」
「一郎が望んだものでいい」
 呟くと、良子はこっそりチョコを手渡した。
「そう言えば、今日はバレンタインか」
「こういうものが望みなら、毎年でも作る予定」
「ほとんどプロポーズだな。でもそれ、嫌じゃないかも」
 今の俺に出来ること。
 それは多分、望む誰かと手をつなぎ、相手を認め、地面に蹠(あうら)をつけることだけだ。