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『魔竜院 THE MOVIE』AURA二次創作

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 手をつなぎ帰路に就いた二人、交わされる言葉は少ない。それは過ごした時間の余韻を楽しむようでもあった。
 口にはしなかったが、不安は胸の中でくすぶっている。
 今日の良子がほとんど離れようとしなかったのも、不安を抱いていたからかも知れない。
「一郎は、明日からどうする?」
 良子が核心を突いた。俺はすぐ学校に戻るか迷っていた。
 人はそれぞれ享有するものが違う。容姿に才能、立場や人間関係、俺たちは後天的な習熟でそいつらを強化する。
 されど、重要なのは価値観の変容だ。俺が良いと思ったものを、同じ感覚で周囲の人間が受け入れるわけじゃない。良いものを身につけたと感じても、それが受容されなければすぐに転落する。人間社会で生きることは、外部の変化に対し目を閉ざさず、価値ある何かを身につける事だ。けれど、俺たちにとって残酷な変化が起きるとき、目を開いたままでいられるのだろうか。自信は持てない。
 そんな事を考えるうちに、近所の公園に差し掛かった。砂場とブランコくらいしかない小さな公園だ。
 公園で遊ぶ子供の一群に、一人の見知った制服姿を見つけた。
 安藤たつおだ。
 相変わらず、特撮ヒーロー的なショート丈のブルゾンを着込んでおり実に寒々しい。奴は俺に気づいていない。エンカウントは避けたいところだが、安藤の様子が少し気になり足を止めた。
「ふはは、<ガイゾニック帝國>からやってきた<空間人>ごとき、この地底国家<アンダークエイク>の勇者<闘装騎震イグナイト>の敵にはあらず!」
 一人ヒーローショーだった。
 いつもなら寒すぎて、視界に入れることも憚る安藤のオーバーアクションは、だが公園に集まる子供たちの視線を釘付けにしていた。
 安藤はノリノリで無茶苦茶な演舞をかます。型も何もあったもんじゃない。想像の赴くままに見えない敵と戦っているのだ。
 そして、見えない敵から大ダメージを倒れる。
「負けるなー!」「頑張れー!」
 子供たちの必死の応援が飛ぶ。彼らの目にもまた、見えないはずの敵が、しっかり見えているようだ。
「やるな、空間人……だが、闘装騎震イグナイトにはまだ三段階のリジェネレーションが存在するのだ……ブレイズコアよ、極性騎装開始だ! 覚醒!」
「「「うおー!」」」
 砂場辺りの熱気は最高潮に達した。
 そして、これまた見えない変身を行うと敵をノックアウトし、ショーはエンディングを迎えた。
 子供たちに「すげーすげー」と連呼される安藤たつお。
「すげー」「すげーよ、安藤」「さすがだぜ、安藤」
 闘装騎震安藤は子供たちから呼び捨てにされていた。
 けれど、俺はその様子に少しだけ俺たちが俺たちのやり方で生きる方法を垣間見た気がした。
 公園から立ち去り良子との別れ際、少し寂しげな背中を引き止める。
「あのさ、良子」
「どうした一郎、忘れ物か?」
「まぁそんなとこ。これ、エンチャントがわりだ。指切りの小指のかわりでもいい」
 こっそり久米さんの店で買ったアクセサリーをプレゼントした。
 中身は銀製のシンプルな装飾が施されたリングで、透かし彫りの花柄がアクセントになっている。
「装備する」
 即答。もらった瞬間身につける。
「うん……綺麗。ありがとう一郎」
 良子ハニカム。
「喜んでもらえれば最高だ」
「これで、全ての状態変化が無効に」
「なりません」
 どこの世界のリボンだそれは。
「取りあえず、学校ではつけてくるなよ?」
「一郎。この装飾具は情報体の干渉によるクラックカースを受け、外そうとすれば拒否反応が」
「呪いの装備かよ!」
 機械的にツッコむ。
「取りあえず、全権保持者たる一郎に従おう」
 その台詞を残し去っていくかと思ったら、良子は思い出したように戻ってきた。俺の肩を掴み、頬に唇を寄せて――接触。やわらかで瑞々しい肌触り。
「忘れ物。ありがとう、一郎。今日は楽しかった」
 赤いリンゴに唇寄せて、すぐに去っていった良子の顔は、きっと夕暮れのせいじゃなく赤かっただろう。
「不意打ちは卑怯だろ……」
 残念なことに、俺は良子以上に真っ赤だった。