しあわせのたまご
午前二時、真夜中のベッドの上で、睦言として語って聞かせるには不釣合な話ではなかろうか。帝人は臨也の胸に擦り寄って小さく息を吐き、手を伸ばして臨也の頭をグリグリと撫でた。
「変な夢をみたんですね」
「うーん、なんだろうね。夢は現実を写す鏡って言うじゃないか」
触れ合う肌に、三月初旬の空気はまだ寒い。小さなくしゃみをした帝人をぎゅうと抱き直して、臨也は布団を肩まで引っ張り上げた。
「きっとあれは、歩いていた道は、人生という奴なんだ」
「それで?」
「君と俺が抱えていた卵はさ、あれは、そう、多分心だよ」
「……そうすると貴方は僕の心を粉々にしてぼろ泣きして自分の心を僕に半分くれた、ということになりますね」
「そう羅列されるとマヌケだからやめて」
「事実そうでしょう」
夢をみたんだよ、君と俺の夢、と臨也が語った内容は、全体的にとてもふわふわしている。ああでも、泣く臨也さんは見てみたかったな、と帝人は思う。普段が普段なだけに、きっと可愛いんじゃないか、なんて思ったりもする。
「ありがとうございます」
「え?何が」
「半分、くれて」
卵、と告げた帝人に、臨也は首をかしげて、それは違うよね、と笑う。
「元は俺が割らなきゃよかったんだから」
「でも多分、夢の僕も嬉しかったと思いますよ」
ふあああ、と大きなあくびを漏らし、帝人はぎゅっと臨也に抱きついて、見えないように笑った。
「温かいほうが、いいじゃないですか」
「そう、かな」
「そうですよ」
「でも手ぶらなら、両手で抱きあえたのにって思うと、少し後悔してる」
まあそれは、現実世界でするからいいんだけどね、と笑う臨也に、だから帝人はますますたまらなくなって、ぐりぐりと額を臨也の胸にこすりつけた。
「大丈夫ですよ、臨也さん」
「手をつなぐには、片手があれば十分です」
そんな、夢の話。