恋のアルチメータム
文化祭を間近に控えた、演劇部夜間飛行。
部員たちは各々が、演劇部一年間の集大成となる『神話前夜』へ向けて全力へ取り組んでいた――……
しかし。
ここに、『神話前夜』の主役とも言える役割でありながら、今一、全力を出し切れない乙女がいた。
「ワコ様」
「…………」
「ワコ様!」
「!!!……ああーっと…、ごめん……ちょっとぼうっとしてた、みたいな……?」
勿論その不調に、気付かないほど部員たちも鈍ではない。
そしてその不調を気にして病まないのは、当の本人である乙女、アゲマキワコであった。
「ワコ様、何かあったんですか」
部員仲間、スガタメタイガーが心配げに尋ねた。
「風邪でも召されているなら、お休みになってください」
「いや大丈夫大丈夫!何でもないから……」
「ワコ様」
二人の会話を聞いていた、ヤマスガタジャガーが口を挟む。
「勿論舞台は大切です。それでも、ワコ様の御身のことも考えてください。
私は友人としても、心配申し上げているつもりです…」
「ありがとう……でも、ほんと風邪とかじゃなくて…」
『じゃなくて?』
二人の息の揃った問い掛けに、しかしワコは答えなかった。
その様子に、それまで状況を傍観していた、エンドウサリナ部長が口を開いた。
「悩み事かな。……それも、多分デリケートな」
「な、なんでわかったんですか!?」
「女の勘さ」
ふふ、とサリナは大人っぽく笑った。今日の演劇部にはたまたま、女性陣しかいなかった。性別不詳の副部長すらいない。
だから、とサリナは言葉を続けた。
「悩み事と言うのは、吐き出すだけでも楽になったりするものさ…どうかな。話してみない?」
「ワコ様、私達でできることならお役に立ちます!」
「全力で!」
「…………うーん……」
腕を組んで、目をぎゅっと瞑る考え込むジェスチャー。どれだけの悩みなのだろう、とサリナはその眉間に刻まれた皺を見て思う。
ながいながい間があって、ワコが、
「……すっごい、下らないことかも知れないんですけど……」
と躊躇いがちに口を開いた。
「ユウ君のことなんですけど」
「ああ、あの漂流者君」
「ま、まさかワコ様!?」
「確かにユウ様は素敵ですけどぼっちゃまには到底……」
「い、いや!そういうのじゃなくて、そのー……」
再び黙り込んだワコへ、メイド達(と言っても今はメイドじゃないけど)が心配げに詰め寄る。ちらっとサリナを見たワコへ、サリナは「大丈夫だから」と落ち着いた笑みで返す。
ワコは深く息を吸って、吐いて、意を決して続きを話した。
「スガタ君とタクト君とユウ君。三人じゃ一人あぶれちゃうよ!?どうしたらいいの!!??」
「………はあ?」
「ワコ様……」
さすがのサリナも、目が点になった。しかしすぐに、そうだった言わせたのは私だったと気を取り直す。
えっ、でも最近調子が悪かったのは、スガタクとかタクスガとかなんとか漂流者君がどうとか、そういうことなの!?
「…あ、あはは………ヘンだよね下らないよね……」
ごめん、変なこと言って。
ワコは小さく頭を下げた。明らかにワコは傷付いていた。
しまった!?とサリナがフォローを入れようとするよりも早く、
「わ、私も思ってましたあああ!!!」
「ですよね!揺れる男心ですよね!!ユウ様を巡る愛憎劇……ああ…………シンドウ邸で昼ドラ展開が……」
「…………」
……サリナは目眩すら感じた。
いや、三人がそういうの好きなのは知ってたけど、三人ともそんなこと悩んでたの!?いやまあ、人の悩みに口出すのはアレなんだけどえっ。ええっ!?
「なんていうか、その……」
サリナは引きつった笑みで口を開く。
「それが、悩みなんだ?」
三人が勢い良く頷いた。まじかよ。これ解決ならないと舞台どうにもならないのかよ。……かと言って、男子三人が短期間でどうこうなるわけがないし……ああ、もう!
「……こう言うのは、どうかな」
サリナは口を開いた。
部員たちは各々が、演劇部一年間の集大成となる『神話前夜』へ向けて全力へ取り組んでいた――……
しかし。
ここに、『神話前夜』の主役とも言える役割でありながら、今一、全力を出し切れない乙女がいた。
「ワコ様」
「…………」
「ワコ様!」
「!!!……ああーっと…、ごめん……ちょっとぼうっとしてた、みたいな……?」
勿論その不調に、気付かないほど部員たちも鈍ではない。
そしてその不調を気にして病まないのは、当の本人である乙女、アゲマキワコであった。
「ワコ様、何かあったんですか」
部員仲間、スガタメタイガーが心配げに尋ねた。
「風邪でも召されているなら、お休みになってください」
「いや大丈夫大丈夫!何でもないから……」
「ワコ様」
二人の会話を聞いていた、ヤマスガタジャガーが口を挟む。
「勿論舞台は大切です。それでも、ワコ様の御身のことも考えてください。
私は友人としても、心配申し上げているつもりです…」
「ありがとう……でも、ほんと風邪とかじゃなくて…」
『じゃなくて?』
二人の息の揃った問い掛けに、しかしワコは答えなかった。
その様子に、それまで状況を傍観していた、エンドウサリナ部長が口を開いた。
「悩み事かな。……それも、多分デリケートな」
「な、なんでわかったんですか!?」
「女の勘さ」
ふふ、とサリナは大人っぽく笑った。今日の演劇部にはたまたま、女性陣しかいなかった。性別不詳の副部長すらいない。
だから、とサリナは言葉を続けた。
「悩み事と言うのは、吐き出すだけでも楽になったりするものさ…どうかな。話してみない?」
「ワコ様、私達でできることならお役に立ちます!」
「全力で!」
「…………うーん……」
腕を組んで、目をぎゅっと瞑る考え込むジェスチャー。どれだけの悩みなのだろう、とサリナはその眉間に刻まれた皺を見て思う。
ながいながい間があって、ワコが、
「……すっごい、下らないことかも知れないんですけど……」
と躊躇いがちに口を開いた。
「ユウ君のことなんですけど」
「ああ、あの漂流者君」
「ま、まさかワコ様!?」
「確かにユウ様は素敵ですけどぼっちゃまには到底……」
「い、いや!そういうのじゃなくて、そのー……」
再び黙り込んだワコへ、メイド達(と言っても今はメイドじゃないけど)が心配げに詰め寄る。ちらっとサリナを見たワコへ、サリナは「大丈夫だから」と落ち着いた笑みで返す。
ワコは深く息を吸って、吐いて、意を決して続きを話した。
「スガタ君とタクト君とユウ君。三人じゃ一人あぶれちゃうよ!?どうしたらいいの!!??」
「………はあ?」
「ワコ様……」
さすがのサリナも、目が点になった。しかしすぐに、そうだった言わせたのは私だったと気を取り直す。
えっ、でも最近調子が悪かったのは、スガタクとかタクスガとかなんとか漂流者君がどうとか、そういうことなの!?
「…あ、あはは………ヘンだよね下らないよね……」
ごめん、変なこと言って。
ワコは小さく頭を下げた。明らかにワコは傷付いていた。
しまった!?とサリナがフォローを入れようとするよりも早く、
「わ、私も思ってましたあああ!!!」
「ですよね!揺れる男心ですよね!!ユウ様を巡る愛憎劇……ああ…………シンドウ邸で昼ドラ展開が……」
「…………」
……サリナは目眩すら感じた。
いや、三人がそういうの好きなのは知ってたけど、三人ともそんなこと悩んでたの!?いやまあ、人の悩みに口出すのはアレなんだけどえっ。ええっ!?
「なんていうか、その……」
サリナは引きつった笑みで口を開く。
「それが、悩みなんだ?」
三人が勢い良く頷いた。まじかよ。これ解決ならないと舞台どうにもならないのかよ。……かと言って、男子三人が短期間でどうこうなるわけがないし……ああ、もう!
「……こう言うのは、どうかな」
サリナは口を開いた。