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Chocolate fairy 【春コミ新刊サンプル】

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【チョコレート・フェアリー】


時間が出来たので、いつものように情報収集兼人間観察の為、池袋の街を歩く。あの化け物と会うかもしれないリスクは避けたいが、やはりこの街が一番興味深い。
平日でもこの街は人で溢れている。運よく喧嘩人形にも接触せず、臨也は足取り軽く人並みをすり抜けていく。

それはただの気まぐれ。

目に付いたゲームセンターに足を踏み入れた。店内はゲーム機のBGMが重なり、騒音で耳が痛い。カップルや高校生が何人かゲーム機に向かっているのを眺めながら、ゆっくりと店内を見回る。
実は臨也がゲーセンを訪れる機会は結構ある。女の子というものは可愛いものが好きで、情報源となる少女達の機嫌をとるためにこういう場所で遊ぶのはよくあることだ。
臨也を尊敬している少女達は高価な物は遠慮して受け取ろうしないから、ゲーセンで取れるようなストラップやぬいぐるみは手頃で渡しやすい。もとより器用な臨也にとってゲーム操作もお手の物。
大事にしますと喜ぶ信者達の姿を見ながら、人間の心理なんて簡単だな、と思ったものだ。
暇つぶしに何か取ってみるか、と店内に並ぶクレーンゲームを物色する。これにしよう、と適当に選んだ機械を眺めていると、今人気のキャラクターのぬいぐるみが積み重なる中に、ひとつだけ違うぬいぐるみが紛れ込んでいた。
黒猫を模したぬいぐるみは、プラスチックの蒼い瞳が埋め込まれ、照明を反射し瞳に光を映す。首には茶色のリボンが巻かれ、たくさんのぬいぐるみ達の上で、存在を主張していた。
(何これ、仕様?店員の間違い?でも普通気付くだろ)
他のぬいぐるみの中で一つだけ異質なそれに興味をひかれ、臨也はにやりと口元に笑みを浮かべた。
(面白い)
コートのポケットから財布を取り出し、中身を確認する。偶然にも財布の中には五百円玉があったので、そのまま投入口に放り込んだ。数回プレイできたので、割と簡単にゲットできた。たかがゲームに五百円。まぁ、たまには無駄遣いもいいだろう。

ポフンッ、と取り出し口に落ちたぬいぐるみを手に取る。ぬいぐるみの首元を掴んで正面から見てみるが、タグが付いていないということを除けば、特に変わったことはない、普通の黒猫だ。が、背中を見ると何故かファスナーが付いていた。
ジーッと音を立ててファスナーを下ろすと、ぬいぐるみの中からはガチャガチャのカプセルが出てくる。
(何だこれ)

『チョコレートの妖精』

そう大きく印刷されたカプセルの中身は不透明、というか一面チョコ色で、光にかざしたり振ってみるが中は見えないし音もしない。
(チョコ……てことはお菓子が入ってるんだろうけど、何でぬいぐるみの中に?というか妖精って……)
不明な点は多々あるが、とりあえず開けてみようと手にグッと力を入れてカプセルを開けようとするが……開かない。
仮にも、日々喧嘩人形と渡り合っている身としては、力に多少自信はある。少しムカついて、やけくそ気味にもう一度渾身の力を込めてカプセルを捩じってみる。
すると

ポンッ

景気良くカプセルが開き、中身が飛び出す。そして臨也の顔目掛けて飛んできた。

「え」
「ん」

何かが、唇に触れた。
「ふにゃっ!」
唇に触れたと思われた何かは、そのまま地面へと落下した。
予想外の展開に、状況を理解しきれない。
唇に手を添え。臨也はペロリと下で唇を舐めてみる。舌先にほんのりとチョコレートの味が広がった。
(甘い……?)
食べ物なんて何も口にしていないのに、身に覚えのない味に疑問符を浮かべながらも、やっと驚きから回復した臨也は、『何か』の正体を確かめる為足元に視線を向けた。

そこにいたのは少年だった。
体長十五センチくらいの小さい……と表現するには、あまりにも小さな少年が頭をおさえ、呻いていた。
(え、何これ)
流石に驚きを隠せない光景に、ゆっくり足を折り、しゃがみ込んでその少年を覗き込む。
視線に気付いたのか、少年は頭から手をどけ、こちらを見上げてきた。臨也を視界におさめた少年は表情を緩ませ、にっこり笑うと「こんにちは」と呟いた。
あまりに普通の反応をとる明らかな人外に(だって体長十五センチはどう考えてもありえない!)呆気にとられそうになる。が、気を取り直して問いかけた。
「ねぇ、君何者?」
「あ、はじめまして!僕はチョコの妖精の帝人です!あなたが僕のご主人ですか?」
嬉しそうに告げられた言葉に臨也は目を見開き、次いで口端を吊り上げ、笑みを浮かべた。
(面白い!これは人外だけど……面白い存在だ!)
池袋の街はいつだって喧騒と非日常で溢れている。しかしその多くは臨也と関係なかったり、彼自身が作りだした、または火種を生み出した事柄ばかりだった。
だけどこの少年は違う。
少年は臨也の事を主人かと聞いた。つまりこの人外は『臨也の為』にここに現れた。この少年は臨也に、臨也だけに与えられたものだ。

「ご主人、か。楽しそうだね。もっと話を聞かせてくれる?」


これが小さな妖精と情報屋の、文字通り『甘い』出会いだった。