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ふうりっち
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novelistID. 16162
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=4.2= プロイセン・ブルー(仮)

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【注意】
※若干の業火のシーンがございます。
※苦手の方は、ご注意ください。






「ヴェスト――ッ!!」

 発光が収まり、室内に静寂が戻ってきた。
 すぐに渾身の力を込め、プロイセンが弟の名前を呼んでみたが彼は表情一つ変えない。無表情のまま佇み、その表情からは生気すら感じられなかった。

「ヴェスト…?」

 様子が一転してしまった弟に、プロイセンは動揺を露にする。しかも動揺は声にも伝わり、不安そうな声音でいま一度、弟の名を口にすれば、隣の青年がひそやかに笑う。

「これこそ若き王、本来の御身であります」

 白き法衣の青年とは対象的に、深き闇を思わせる黒衣を纏い、生気を失った表情を『本来の姿』と称えられても、プロイセンには納得できるはずがない。
 ドイツと自分は鼻筋が深く、共に碧い瞳と黄金色の髪が特徴的だ。
 ただ口下手な弟は無愛想に見られがちであったが、目の前のように腑抜けた面構えはしない。常に自信を持ち、凛々しく振舞うよう育ててきた。こんな情けないわけがない。弟に対しては一本筋の通った信念をもつプロイセンだからこそ、目の前で変わり果てたドイツの姿を受け入れらはずがなかった。

「ベラベラと勝手な事ぬかすなよ、若造ッ!」
「失礼ながら、私は若き騎士様よりは少しだけ長く生きてますゆえ、若造ではございません」
「うるせぇ! これ以上、お前の御託を聴く気はねぇからな。今すぐヴェストを元に戻しやがれ!」
「ですから…この御身こそ本来であり、先ほどまで出で立ちが仮の姿なのですよ」

 子供を宥めるように説き伏せる青年の口調は穏やかではあるが、プロイセンはフンッと鼻を鳴らし、唇の端を吊り上げて笑った。

「テメエの御託は、聴いてないって言ってんだろが!」

 吹き飛ばされた際、壁に打ち付けられた痛みが残る四肢ではあるが、それでも起き上がると左手に集中させ、狙い通り魔力を放った。
 勢いよく放たれたそれは、真っ直ぐ青年へと突き進んでいく。

「ふふ、この程度の魔力など他愛もないことです」

 挑発的な双眸を見せた刹那。手をかざす事無く眼力だけで魔力を拡散された。

「嘘、だろよ…」

 相手の魔力を侮っていたわけではないが、ここまで強力とも想像していなかっただけに、プロイセンは小さく舌打ちを零す。だがこの程度で諦めるわけにはいかない。まだドイツが敵の手の内にある以上、足掻いて、足掻いて、最後まで足掻くしかなかった。
 白き魔導師が隣に佇むドイツの背にそっと触れる。
 それだけで、プロイセンの空気が変わった。

「ヴェストに触んなッ!」

 すぐさま吼えると、魔導師は唇の端だけでにやりと含み笑いを浮かべてみせる。
 ドイツに触れる行為が挑発であることは明らかであっても、プロイセンは感情を抑えられなった。

「随分、過保護なんですね。そのような事では、若き王が祝宴を挙げるとき大変でしょうに…」

 くすくすと笑っているが、彼の双眸は笑っていない。ただ相手を刺激するように嘲笑っているだけだ。

「勝手に飛躍した話してんじゃねえよ!」
「おや、こちらの話は聞かいとおっしゃったはずでは?」

 余裕すら感じらせる涼やかな表情の青年は、プロイセンを見下すように漆黒色の瞳を細めた。途端、痛いところを突かれたプロイセンの頬が羞恥と悔しさで赤く染まり、悔しそうに唇を噛みしめる。

「ですが、これは飛躍ではありません。
 若き王はこの祝宴を持って新たな生を歩む事になるのです。今日の善き日を祝福していただける方が、お一人でも居ることは素晴らしいなことですよ」

 青年の突拍子もない発言に対し、プロイセンは訝しげに相手を見つめるだけだったが、大きく息を吸い込むとあらん限りの声を張り上げた。

「オイッ、ヴェスト! いい加減目を醒ませッ! お兄様の命令だ!」

 想像以上に手強い相手を牽制しつつ、ドイツへの呼びかけた。この程度で諦める気などない。大事な弟を目の前で攫われることなど絶対あり得ない。
 プロイセンは声が嗄れても、懸命に呼び続けた。

「ヴェスト聴いてんのか? ヴェスト…、ドイツッ!」
「……」

 呼び名が変わった瞬間、それまで無反応であってドイツの瞼が微小ながら動いた。

「まさか、そんな……」

 強力な魔力によって肉体ばかりか、精神すら封じているにも関わらず、ドイツは強靭な精神力の前に、初めて青年が同様の色を浮かべた。

「ケセセ…みくびるなよッ! これ程度で俺たち絆は……」

 自分達を繋ぐ絆。
 それは目に見えなくとも、決して誰にも断ち切れないことなどできないことを主張した矢先、新たな呪術が紡がれた。


『挙動封殺』


 その言葉は、これまでプロイセンが聞いた事がない言語だったこともあり、言葉がもつ意味を瞬時には理解できなかった。
 しかし、言葉に合わせるようにドイツが広げた両手を頭上で掲げる姿に、事態が自分が思っている方向とは別に進みつつあることだけは理解できた。

「う、……動け、ねえ…」
「若き王、騎士様の動きをそのまま封じていてください」

 青年の言葉を受け、意識が無いにも関わらずドイツは両手を掲げ、自らの魔力を用いてプロイセンの動きを封じて込めた。

「さて、どうやら貴方は若き王にとって、非常に邪魔な存在のようですね」
「邪魔? それはお前の解釈だろうが! ヴェストと俺はな……」
「若き騎士様、少しだけ痛い目味わってみますか?」

 口の減らないプロイセンに苛立ったのか、先ほどまでの余裕は消え失せ、白き魔導師の唇が微かに引きつっているのが分かる。

「痛い目だぁ? 俺はそんなに弱く……」


『唸れ大地の鼓動 我求む 慈悲なき終焉の調べ 亡びの咆哮よ今この手に 白炎乱舞』


 魔導師が紡ぎだした祝詞に対し、自らも魔力を用いて身構えたが、法力は相手の方が勝っていた。

「……ぅあああッ!」

 放たれた魔力は、プロイセンの全身を白き焔で灼きつくす。

「……やっ、め……、ああぁぁ……ッ!」

 その白き業火は一身が纏う穢れを浄化するように、全てを包み込んでいく。

「あ、あぁ……ヴェ、スト……」

 しかし、身を灼かれてもプロイセンは動いた。必死に弟へと腕を伸ばし、苦しくとも名前を口にする。
 この程度の悶絶に負けるつもりはない。己が持つ精神力の強さを見せつけた。

「なんと…その精神力の強さには感服いたします。本当に素晴らしい法力をお持ちの方ですね」

 身が焦がれようとも、弟から視線を外さないプロイセンの強靭さを称賛するが、魔道師は呪術を弱めるつもりはないようだ。

「ですが、いつまで頑張れますかね。そろそろ臓物あたりが苦悶を訴える頃かと、思うのですが…」
「あっ、…ああああっ!! 」

 途端、プロイセンは躯をを仰け反らせ、絶叫を繰り返す。まるで生き物のように纏わりつくそれは、皮膚ばかりか器官も焼けるように、熱い。
 室内にプロイセンの絶叫が響き、更に強い魔力の風が吹き荒れた。それはプロイセンの魔力とドイツの魔力が引き起こす疾風が上昇気流を巻き起こしことによるもの。
 烈風を受け、襟足で切りそろえられた黒髪が乱れ舞うなか青年は艶然と笑う。