=4.2= プロイセン・ブルー(仮)
「若き騎士様。今更ですが自己紹介がまだでしたね。私、ホンダと申します。聴こえていますか?」
悶絶するプロイセンを見つめる双眸には余裕が戻っていた。それは微かに欣喜を孕み、愉しげに揺らぐ。そして、口元が小さく動いた。新たな呪術でも唱えているのかもしれない。
「実はですね…私は東方の國、ジパングから参りました。もし我が国へお越しに際は、是非お立ち寄り下さい」
礼儀を重んじるよう白き魔導師は、ゆっくり頭をさげる。
「しかし、私は最近物忘れが酷いので、貴方様が分からないかも知れませんね…」
業火でプロイセンの動きを封じ込めながら、ホンダと名乗る魔導師は一人思案にふけっていた。
「お暇を見ていらして下さっても、それでは失礼にあたります。そうだ、貴方様に徴(しるし)をつけておきましょう!」
子供のようにはしゃぐ青年は陽気に両手をパンと鳴らす。だが、それが引き金となった。
掌から生み出された魔力は小さな塊と化し、まっすぐプロイセンへと向かっていく。
事態の異変を本能的に察していたプロイセンは、残り少ない気力を振り絞りバインド・ルーンを唱えてみたが相手の魔力が上回った。瞬間、これまで感じたことがない痛みが右目に走ると、プロイセンの視界が赤く染まる。
右目には、鋭利な物を刺されたような感覚だけが残った。
『ヴィルヌーッツァ ドヴェーリ』
<徴>と称しプロイセンへ一撃を与えた青年が新たな呪術を唱えれば、突如、空間がグニャリと歪む。歪んだ空間の中は闇だけが広がり、入口がどこに繋がっているのかさえ分からない。
秩序を捻じ曲げられた目の前の光景が信じられないプロイセンは、驚きうろたえ、声もなくただ目を瞠るばかりだった。
そんな彼へ最後に笑みを残す青年と、去る間際、ドイツの右目から涙が伝うのが見えた。だが肉体を封じられたままでは、彼等の後を追う事など出来やしない。
「…ヴェ、スト……」
赤い夕日。
懐かしい声。
そして、必ず護ると約束したのに――
「……オヤジ…、悪ぃ…約束…む、り…だ…」
「プロイセンッ!」
徐々に意識が遠退くなか、プロイセンの名前を叫ぶ呼ぶ声に意識が微かに浮上する。
「ハハ…ぼっちゃん…か…、そんなに、走ん…なよ、……コケ…る…ぜ……」
「プロイセン!」
珍しく感情を露に悲痛な声をあげ駆けて来るオーストリアの声を遠くに聞きながら、プロイセンは意識を手放した。
続く→
作品名:=4.2= プロイセン・ブルー(仮) 作家名:ふうりっち