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Goodbye My Wings02

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出会って間もないのに何でも知ってるつもりだった。
おかしいよな、自分のことすら俺はわかってなかったのに。


「シエルさんっ!!」
マクロス・フロンティアが誇る芸能プロダクションビルのカフェテリアでよく知る声を耳にしたアルトは咄嗟に手に持っていた雑誌で自分の顔を隠した。
声の人物ランカ・リーはアルトの目の前でたい焼き型の携帯を弄るシエルに心配そうに駆け寄って来た。
きっと彼女もどのチャンネルのニュースでも流れるシエルの報道を耳にしてきてのだ。
「おっ、ランカちゃん。」
ランカに視線を移したシエルは昨日同様けろっとした表情でランカに挨拶をする。
「大丈夫なんですかっ!?昨日ライブ中に倒れたって!」
重病かもしれないと報道されているシエルがまさかこんなオフィスビルのカフェテリアで優雅にコーヒーブレイクしているなどとは思いも拠らなかったらしくランカは驚きを隠せぬ表情でシエルに詰め寄る。
そのインパクトのせいか幸いまだアルトには気づいてないらしい。
「あー、ただの貧血。ちょっと気合入れて歌いすぎたみたい。」
「そうなんですか?それなら安心しました。」
ほっと胸を撫で下ろすランカをにこにこと眺めるシエルの口が三日月に曲がったのを雑誌の隙間から覗きみてアルトの胸を嫌な予感が通り過ぎる。
(まさか・・・こいつ。)
「おーい、アルト。そろそろランカちゃんに挨拶したらどうだ?」
「ぁっ!おい!!」
アルトの予想通りシエルはそういうとさっと雑誌に手を伸ばしアルトの手からそれを奪い取ってしまった。
「えっ!!ぇえ!?アルトくんっ!?なんでっ!?」
本日二度目の予想外の人物の登場にランカは目をめいいっぱいに広げアルトとシエルを交互に見る。
できればランカにはばれたくなかったと思うもののこうして露見してしまえば説明せざる終えないとアルトは重い口を開く。
「こいつのスパイ容疑はまだ晴れたわけじゃないからな。だからSMSが交代で付いてるんだ。」
「で、その疑いを晴らすために俺様がわざわざSMSの奴らをボディガードに雇ってるの。」
長い指をぴんっと立ててウィンクするシエルはさすがシエルというべきか、様になっているのが憎らしい。
シエルの解説はどことなく引っかかる点が多いがとりあえず間違いではないのでアルトも黙っていた。
「だから今アルトは俺に雇われてて、俺の下僕なの。」
「下僕って…っ!」
「違うっ!俺は下僕なんかじゃない!ランカが変な想像するからやめろよっ!」
が、過剰な補足にランカがよからぬ想像をしたらしく顔を赤らめたところでアルトがすかさずストップを入れる。
本当にシエルの悪ふざけには付き合い切れない。
シエルがこの状況を楽しんでいるのは明らかで、現に彼は腹を抱えてげらげら笑っている。
「ほんとっアルトもランカちゃんも予想通りの反応してくれるからからかいがいがあるんだよなーっ…っ!!」
そこまで言ったところで急にシエルが口元を押さえ激しく咳き込みだした。
「シエルッ!?」
「シエルさんっ!?」
咄嗟に前かがみになったシエルの肩に手を置くとすかさず振り払われ、アルトの両手が虚しく宙に取り残された。
「大丈夫だって、お前ら大げさすぎ。」
「おい、お前本当に働きすぎだぞ?」
「そうですよ、シエルさん。もっと休んだほうが…?」
心配そうに声をかけるランカとアルトを振り切ってシエルはさっと立ち上がる。
「馬鹿か、こんなことくらいで休んでられるかよ!?おいっ行くぞっ!」
少し離れたテーブルで打ち合わせをしているグレイスに目で合図をするとシエルがさっさと歩き出そうとしたところでランカがシエルの肩を叩いて呼び止めた。
「あのシエルさん、これ私のファーストライブのチケットです!よければでいいです!シエルさん忙しいと思うし、無理しないで下さい!」
ランカに差し出されたライブチケットが入った箱をシエルは数秒間じっと見ていた。
その様子もどこか変な気がしてアルトが何か言葉を掛けようとしたところでぱっとシエルが顔を上げた。
「ありがとうな、ランカちゃん。絶対行くから。グレイス予定のほうよろしくな!」
ランカに例を言って微笑むシエルはしかしいつも通りでアルトは声を掛けそびれる。
「それじゃあな、ランカちゃん。付いて来い、下僕1号、2号!」
特にそう命名されたことはないがたぶん下僕1号、2号はそれぞれブレラとアルトのことだろう、とアルトは腑に落ちないながらもそれに従う。
「あっ、ねぇアルト君。」
「ん?」
シエルの後を追おうとしたところでランカに呼び止められアルトは歩みを止める。
「明日SMSの慰安旅行でマヤン島に行くんだって?実は私も明日午後からお休みで…。」
少し切り出しにくそうに目線を下に逸らして話すランカに言われて初めて明日がSMSの慰安旅行の日であることをアルトは思い出していた。
(そういえばそんな話だったな。)
SMSの勤務が休みだからその日は誰もボディーガードは付けれないと言ったらシエルが「ずるいっ!」と膨れッ面をしていたのが3日前のことだ。
「それでもしよければアルト君と一緒に行動したいな…って。」
ランカがそこまで述べたとき不意にそれまで一言も発さなかったブレラが間に割って入ってきた。
「およしなさい、そんな男。」
「おい、それどういう意味だよ?」
ランカに返事するよりもまずこのブレラの発言にイラッとした表情を隠せずにアルトは彼を睨み付けた。
「こいつは腕はたつが感情が伴わない。中途半端だ。」
まともに会話したこともないのに自分を知った風な口ぶりで非難されることがアルトは我慢ならず、さらに昨日の病室での一件も重なりブレラの胸元に掴みかかろうとしたところでアルトの背後から幾分怒気を含んだシエルの声がした。
「何やってんだ、お前ら!さっさと行くぞっ!!」
その声にアルトの行為は中断され、既にブレラは何事もなかったかのようにシエルの方に歩み出す。
ブレラの憎らしい後ろ姿にアルトは一度舌打ちして、ランカに視線を戻す。
「後でメールする。」
やっとランカを正面から見れたアルトだったが、もはやこれ以上シエルを待たすことは不可能と判断してランカにそれだけ耳打ちしてシエルのもとへ駆け出した。

「アルトさん、ちょっと。」
アルトがシエルの撮影風景をぼーっと眺めているとグレイスに急に呼び出された。
シエルのマネージャーであるグレイスとはよく顔を合わせるものの直接話した経験が殆どなく何かあるのだろうか、と疑問に思いながらアルトは彼女に呼ばれるまま給湯室に入った。
「俺に何か用か?」
「シエルのことなんだけど…。」
そう切り出したグレイスの表情が曇っていて悪い話であることは安易に予想できてアルトの表情も険しくなる。
「…シエルがどうかしたのか?」
「彼には絶対あなたに言うなって言われてるんだけど。」
「教えてくれ。あんたもそのつもりなんだろ?」
そんな前置きをされてもグレイスがわざわざアルトを呼び出している時点で彼女に話す気があるのは明らかだった。
作品名:Goodbye My Wings02 作家名:kokurou