こらぼでほすと 襲撃11
アレルヤ、ハレルヤ、どこにいるんだよ?
俺の代わりに、マイスター組を束ねろって言っただろ?
怪我してないか?
どっかに捕まってんのか?
ティエリアは、案外、落ち込むんだぞ?
あいつ、なんだかんだで支えがいるんだよ。
刹那じゃ、まだ無理だ。
おまえさんがいるから安心してたのに。
もういっそのこと、戻ろうかな。
少しぐらいなら、何とかなるよな?
おまえさんたちが戻るまでなら。
なあ、アレルヤ、ハレルヤ、いつ戻るんだ?
気付いたら、ドクターが顔を覗かせていた。床に倒れていたらしい。というか、三蔵とやりあって気付いたら、ここに押し込められていた。どこかわからないが、窓のない部屋だ。独房というには贅沢すぎる造りだし、ドクターが、たまにやってくる。
「ロックオン君、わかるかい? 」
ヒラヒラと手を振られて、生きてますよ、と、返事したら顔を顰められた。連絡を受けてから、あまりよく眠れなかったのだが、ここに来てから時間がありすぎて、余計に眠りが浅くなった。いや、寝ているらしいのだが、自分にはよくわからない。考えに沈んで、そのまま寝ているらしいからだ。
「食事を摂らないのは、ハンストのつもりか? 」
「・・・いや、腹が空かなくて・・・」
「眠れないか? 」
「・・・いま、寝てたから起こしてくれたんですよね? ・・・それより、オーナーにお願いしたいことがあるんですが、連絡は取れますか? 」
「それなら、数日のうちに戻られる。」
「・・そうですか・・・」
わかっているのかいないのか、実にあやふやな状態で、ドクターも困る。ここに閉じ込めてからでも、明らかに不眠気味だし、どこか正気が抜けているみたいな状態で、専門家に診せたほうがいいのか考えるほどだ。
「食事する気がないなら、強制的に栄養補給するが、それでいいか? 」
「・・お好きなように・・」
体調の問題もあるので、強制的に睡眠と栄養補給を摂らせる方向で処置をする。この様子では、すぐに起き上がれなくなるのは間違いない。
次に気がついたら、オーナーの顔があったので、ずいぶん、早いな、と、驚いた。それでも、遅くなりました、と、挨拶されたから、知らないうちに何日か進んでいたらしい。
「お加減はいかかですか? ロックオン。」
「・・あのさ、俺、吉祥富貴をクビにしてもらえないか? 」
「まあ、いきなりですね? ですが、それはできません。あなたからの申し出で、どうこうする問題ではありません。私くしは、刹那からあなたを頼まれたのです。刹那からの申し出でなければ受けられません。」
「じゃあ、俺がスタッフだというなら、アレルヤの居場所は教えてもらえるんだよな? 」
「居場所は教えられません。ただ、無事に生きていらっしゃることは保証いたしますし、今後も生命の危険はないことも確実だと申し上げておきます。」
「俺は、人質としての価値がある? 」
「いいえ、価値はございません。あなたの生死を交渉の道具にしたら、キラと悟空が、真っ先に怒ります。・・・・ロックオン、私くしの話をお聞きくださいますか? すでに、刹那とフェルトには申し上げたので、理解してくださっておりますの。」
どっかの回線が、二、三個切れています、と、ドクターは言うのだが、案外、マトモな目をしていたので、歌姫は、先日、刹那たちに伝えた『吉祥富貴』の決まりを説明した。それと、CBの準備が完全でないことも付け足した。
「今、あちらには稼動するMSはエクシアのみです。単機でミッションを行っても、その後が続きません。・・・・アレルヤには多少、辛抱していただいて準備を完璧にするべき時です。これも、おわかりいただけますね? ロックオン。」
命の保証はする。だが、これだって信頼関係がなければ信じてもらえない言葉だ。証拠を提示できる事柄ではない。黙って聞いているロックオンは、歌姫の言葉が終わっても、そのままだ。壁のパネルは、外の景色をリアルに映している。今日は、晴天で、眩しいほどの陽光が庭に降り注いでいる。それなのに、ここの温度は低い。沈黙した空気が重いからだ。
「私くしを信じてくださいますか? 」
「・・・信じるさ。あんたたちが、俺を拾ってくれたから生きてるんだ。・・・それはわかってるさ。けど、状況ぐらい説明してくれ。」
「刹那たちには言わないと約束していただけますか? 」
「・・・わからない。そんな約束は無理だ。」
「では、申し上げられません。」
「・・・そうだよな・・・」
収監されていると言ったら、やっぱり奪回すると言うだろう。だから、生きていることだけ伝えたのだ。相手も、それなりに気付いているはずだ。
「怪我してないか? 」
「はい。」
「・・・研究材料にされてるとか・・・」
「ございません。」
「メシ食わせてもらってる? 」
「はい。」
「拷問とか?」
「ないとは申せませんが、人道的見地に劣ることはないと思います。」
当たり障りのない質問ではあるが、ある程度の情報にはなったのか、ロックオンは、少しほっとした顔になった。
「私くしからもお尋ねしたいことがございます。」
「ああ。」
「どのように、ロストの事実を把握されましたか? 」
「寺に電話がかかってきたんだ。」
「王留美ですか? 」
「ああ。それで、事実確認をしてから、ということで引き受けた。」
なるほど、三蔵の寺の電話は盲点だった。そこまでチェックはしていなかった。キラが接触方法がわからない、と、言ったはずだ。
「王留美からの接触は、今後拒否していただけないでしょうか? 」
「ははは・・・もう連絡してこないだろう。ドジ踏んで捕まってるエージェントなんか用済みだ。」
自嘲するようなロックオンの言葉に、ドキリとした。まさに、アレルヤは、それだからだ。
「それなら有り難いのですが・・・・私くしが思うに、刹那たちに対する人質としての価値を認めているのは、彼女のほうだと思います。・・・ロックオン、いえ、ママ、私くしは、あなたを身内だと思っています。だから、無茶なことはなさらないと約束してください。刹那が全部終わらせて戻って来るまで待っていてあげて欲しいのです。何も手を出すな、とは申しません。もう少し落ち着いたら、ラボへの出入りもできるようにしますから、それまで、お待ちいただけませんか? 刹那だけではありません、アレルヤとハレルヤ、ティエリアのためにも、戻れる居場所でいて欲しいのです。」
かつて、自分にはキラがいて、逃げていた時も、それは支えになった。キラのところへ行くのだと頑張ったから再会できた。キラは、別に何かをしてくれるなんてことはない。ただ、「おかえり。」 と、迎えてくれるだけだ。だが、それだけで十分だったし、これからも、それでいいと思っている。そんなものが、たぶん、人間には必要で、強さの原動力になる。
「・・・あんたも苦労してるんだよなあ。」
そんな想いを込めて、言葉を吐き出したら、優しい色のピーコックブルーの瞳は細められた。
「・・・ママ・・・」
「エライよな? さすが、天下の歌姫様ってとこか。・・・わかってるんだけどな、俺も。どうも性分でな。」
作品名:こらぼでほすと 襲撃11 作家名:篠義