こらぼでほすと 襲撃11
「あなたが優しいのは承知しておりますよ? そうでないなら、刹那たちは、あんなに懐きません。」
やってくる刹那たちを受け止めるだけが、自分の役目だとはわかっているのだ。ただ、刹那のためになるのなら、と、思うと身体が勝手に動いてしまう。それを止められないのは、性格だからしょうがない、と、親猫も苦笑する。
「生きてるんだよな? 」
「はい、ご無事です。」
「でも、しばらくは眠れないよ。」
「そうでしょうね。もしよろしければ、私くしが添い寝を?」
「いや、それは勘弁してくれ。あんたのファンに殺される。というか、いい度胸だよな? 俺が暴れて、あんたを人質に取ることもできると思うんだが?」
「それは無理ですよ、ママ。今のあなたなら、私くしでも勝てます。」
コーディネーターを甘くお考えですね? と、悪戯な目でラクスも、ベッドの脇に腰掛ける。酷いなあ、と、ロックオンも笑っているが、それは事実だ。眠れないママは、すでに起き上がるのが難儀な状態だからだ。今も、横になったままで話をしている。
「刹那を呼び戻しましょうか? 」
「いや、いいよ。・・・たぶん、しばらくは、こんな状態だろう。」
「そうやって、我慢なさるからよくないのですよ? 」
「あんただって、相当、我慢はしてるだろ? この間、フェルトと買い物して帰ってきたあんたの顔を見て、そう思った。ものすごく楽しそうでさ、でも、普段、そういうことはできないんだろうなって。」
「これが、私くしの選んだ道です。普通に生きることを選ばなかったのですから、仕方ありません。・・・・ママは、私くしのことも見ていらっしゃるんですね。」
「あんたが、俺をママと呼ぶんなら、それらしいこともするさ。」
「キラが、あなたのお弁当はおいしいとおっしゃいますの。今度、私くしにも作ってくださいませ。」
「ああ、起きられるようになったらな。みんなで、ピクニックでもしてこいよ。」
ロックオンの右手が、ちょいちょいと動く。ラクスに屈めと言っているらしい。その通りに、身を屈めたら、頭を撫でられた。誰も、天下の歌姫様に、そんなことはしない。おかんだと、歌姫が言うから、そういう態度を、ロックオンもとるのだ。
「・・・悪かった・・・俺が呼んだから戻ってきてくれたんだろ? ありがとな。」
「ロックオン。」
「ちょっと時間くれたら、復活するから、弁当は、それまで待っててくれ。」
それだけ言うと、手がぱたりと落ちた。どうやら気が抜けて眠ったらしい。本当に世話好きおかんな性格だとラクスも苦笑する。いろいろと思っていることはあるのだろうが、全部を曝け出してくれるわけではない。最初のほうは、本音だったが、後半は、誤魔化した様子だった。刹那に問いただしたいだろうし、ティエリアのことも心配しているのだろう、王留美に対する不審も、それを言わないのが、ロックオンだ。また、それがわかるだけに手を貸そうと思わせるのも、ロックオンなので始末が悪い、と、歌姫は思う。
「私くしが勝手にやる分には、自由です。そういうことですね? ママ。」
刹那は呼び出しても戻らないだろう。なぜ、言わなかったと責められるのは、イヤだと言うに違いない。王留美に対する不審というものは、今のところ確証がないから、こちらも説明が出来ない。そうなると、できることは、ひとつだ。
元々、キラからもバレたら、フォローに紫子猫を呼び出すつもりだと言われていた。それなら、簡単に運ぶはずだ。
「その前に、うちのママをダウンさせたツケは支払わせますよ? 王留美。」
まずは、騒ぎの元凶を叩かなければならない。そちらは、すでに準備を始めている。あれで、これなら、さらに、ということだ。容赦する必要はない。ヒルダたちは、狐狩りを開始しているし、キラたちも動いている。
腕利きエージェントと言われるものたちでも、本物の戦争屋とスーパーコーディネーターには敵わない。特区内のある事務所が無人になるまで、それほどの時間はかからなかった。
「キラ坊やも容赦のないことさね。」
無人の事務所を確認して、ヒルダとマーズ、ヘルベルトは笑っている。実働部隊たる肉体派のほうは、ヒルダたちが片付けた。それらを回収して、ひとつの船のコンテナに押し込んで、戻ってきたところだ。そのコンテナは、王留美の本宅へ送られる手筈になっている。一ヶ月の船旅になるから、コンテナには、それに見合う食料と水も積んでやったから生きていられるはずだ。事務所のほうにいた頭脳派は、そんなことをしたら死んでしまうから、こちらは飛行機便にしてやった。まあ、こちらも空調のない貨物便だから、かなり辛い目には遭うだろう。
そして、ここのシステムに蓄積されていたデータは、スーパーコーディネーター様が完膚なきまでに破壊した。そこのシステムのパネルには、納豆が発酵している映像が映し出されている。かなりリアルだ。
「納豆食いたくなったな? マーズ。」
「まったくだ。」
「ここは、これでいいさ。後始末は、あちらのお嬢ちゃんだ。」
王留美傘下の企業の出先機関となっている事務所だから、異変についての報告も直ちに入るだろう。
「後はどうするんだ? これじゃあ、食後の運動にもならないぞ、ヒルダ。」
大した人数ではなかったので、この程度ではヘルベルトには物足りない。もうちょっと派手に暴れたいところだ。
「末端機関でも潰すかい? キラ坊やから情報は入ってる。」
「しょうがねぇーなーそれで我慢するか。」
警察や公安には正体がバレないようにしているが、各国の情報機関には、わざと知らせてあるから、どこも動かない。王留美が、歌姫の持ち物に手を出したので報復する、という情報を流したからだ。手出ししやがったら、おまえらも同罪だという脅しだから、どこも現場にも現れないだろう。バレたら、とんでもないことになる。過去に、何度もやられていれば、みな、自重する。
もちろん、これだけでは終わらない。王留美が裏で持っているエージェントたちの拠点は、全てに愉快なウイルス通称「イネイネちゃん」が発送済みだ。そこにあったデータは、全て抹消されたから、活動で取得したものは消えたことになる。本宅にも、イネイネちゃんは送られているので、そこに付随して稼動しているネット環境内のシステムも被害を蒙る。かなりの規模のネットハザードを引き起こすだろう。その保証やら賠償で、天下の王財閥もてんてこ舞いの忙しさのはずだ。
「なんで、オーヴは無視なんだ? 」
それらをラボで確認していた鷹が首を傾げる。一番特区に近い拠点であるオーヴだけは、どちらの被害も免れているのだ。
「ああ、それ、三蔵さんの担当だから。来週、お盆が終わったら、暴れてもらうために保存してるんだ。」
ラクラクちゃんを置いてるから、防御完璧だよーと、大明神様はのたまっている。わざわざ、ネットハザードからも保護しているらしい。
「三蔵さん用か、それなら、このくらいの規模は必要だろうな。」
うちの女房に、よくも手を出しやがったなぁーと怒っていたらしいから、それなりの報復に暴れたいのだろう。
「ムウさんだって、ヒルダさんたちと遊んでたでしょ? 」
「まあ、そうだけどさ。」
作品名:こらぼでほすと 襲撃11 作家名:篠義