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君はおりこう

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「オドロキくんはあったかいよねえ」

 そう言いながらぎゅうと手を徐に握る目の前の男に、僅かながら眉を顰め、そうして珍しい、と王泥喜は心の内で密かに呟いた。
 吐き出す息は白くはならずとも、ひんやりとした冷たい空気が時折思い出した様に駆け抜ける。冬の到来が近い証拠だ。
 王泥喜は繋がれた手をそっと見詰めた。


 買い物に行くと言ったのはいつもの通り自分で、然し常とは反して「じゃあ僕も」と告げたのは他ならぬ成歩堂自身だった。
 外は王泥喜でさえ肌寒いと感じる程なのに、それなのに寒さに弱そうな――あくまでも、王泥喜の主観であり予想であるが――男が、それを振り切って外出しようという事実に、王泥喜は少なからず驚いた。そして疑った。何かあるのだろうかと。
 王泥喜が知る成歩堂は、常にぐうたらしていて真偽は兎も角、娘に養って貰っているようなだらしのない男だ。然しその実、動く時は無駄な事は殆どしない。要するに、何かしらのアクションを起こす時は、矢張り何かしらの意味がある、という事だ。
 また極秘任務だろうか。いや然し、例の一件はもう既に決着を終えた筈だ。―――ならば、何故?
 真偽を問う様にそっと上目に見やった男は、然し唯やんわりとした笑みを返すばかりで、王泥喜が求める回答を返す事はなかった。
 嘆息し、なら一緒に行きますかと事務所のドアを潜ったのがつい先程。王泥喜が先に折れるのも、変わり映えしない日常の一つだ。
 大事な事ほど口を閉ざすのは成歩堂の悪い癖であり、そしてそれが顕著に出始めたのは件の事件の所為なのだろう。本人に直に聞く訳にもいかず、けれども彼の友人と称する人達と少ない回数ではあるが何度か接して、王泥喜はそうあたりをつけている。そしてそれは強ち間違ってはいないとも。
 それを踏まえた上でそれでも、と思う欲深さに自己嫌悪するも、それも仕方がないと、頭の片隅で思う。
 彼は憧れの人だった。
 初めての法廷で隣に立った成歩堂を見て彼の面影を垣間見、そしてその後それは完膚なきまでに打ち砕かれた。現在は思慕と恋慕、それからまだそれでも僅かに残っていた、そしてまた育ちつつある敬慕が複雑に混ざり合って王泥喜の中に存在している。
 どこまでが尊敬の念でどこからが恋情なのか混濁した感情では一線を引く事は難しく、けれどもそれらを全部ひっくるめて好きなのだと思う。――仮令いつか感情の間違いに気付く事があったとしても、それでも今のこの気持ちは真実だと思いたい。
 つまりはそういう事なのだから、知りたいと思うのも何ら不思議はない筈である。けれど土足で他人のやわらかな部分を踏み躙る様な真似は、絶対にしたくなかった。然しそうなると王泥喜に出来る事といえば見ぬ振りをして口を噤む事だけであり、それを心底歯痒く思う。それを成し遂げるには、自分には色々なものが足りない。足りていない。
 王泥喜は再度、小さく溜息を零すと、未だ繋がれている手をそうっと持ち上げた。

「…俺が平熱高いってのは認めますけど、成歩堂さんは体温低過ぎるんですよ」
「そんな言う程低いかな。…あ、やっぱり低いかも。見て、オドロキくん。指先紫になってる」

 子供の様にはしゃぐ大人に呆れつつも、王泥喜は空いた片手を持ち上げて、成歩堂の手を擦る。その行為は少しでも温まれば良いと思ったからに他ならない。然し成歩堂は、それを見てにんまりと唇を弧に描いた。

「ねえねえオドロキくん。右手も寒いんだけど。こっちもやってくれる?」
「はあ?!何ですかそれ!大体ポケットあるんだから、片手はそれに突っ込んどけばいいでしょう!」
「うーん、それはそうなんだけどね。何ていうか…ノリ悪いね、キミ」

 余計な御世話です、と口から零れそうになった言葉を辛うじて呑み込み、ギッと眼前の男を睨み付ける。対して成歩堂は堪えた風もなく、ゆるりと首を傾げた。

作品名:君はおりこう 作家名:真赭