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君はおりこう

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「寒いね、オドロキくん」

 急な話の方向転換に、ついていけなくなる。成歩堂はよくこんな会話の仕方をする。そしてその時は必ず何か、主に王泥喜自身の身に良くない事が起こる。王泥喜は警戒を強めた。

「片手はキミが、片手はポケット。それで手は温まった。でも、やっぱり寒いよね。冬が近いから、風も冷たいし」
「ええ、そうですね。だから早く用事を済ませて帰りましょう」
「うん、そうだね。早く帰ろう。―――そしてあったまろうか」
「…………………………は?」

 真意を測りかねた王泥喜を余所に、成歩堂は悪戯が成功した子供の様な笑みを見せた。その表情が酷く楽しそうで、だから余計に王泥喜は混乱する。

「キミはとても賢いから。だからもう分かってると思うけど、僕は理由も目的も無くこんな面倒な事はしないんだ。大体買い物だけならキミに頼めばいいだけの話だしね。じゃあここで問題だ、オドロキくん。僕はなんでキミと一緒に外出したと思う?」
「は、え、えっと、なんでって…極秘任務、とかじゃないんです、か?」
「残念。それはもう既に終わっているのを、キミは知ってるだろう?」

 さあさあ、と続きを強請る成歩堂に、困惑しつつも頭を捻る。フル回転した脳内は一つの答えを弾き出し、けれどもまさか、とすぐさまそれを否定する。

「まだかい?キミがこんなに悩むなんてなあ…。ちょっと予想外だ。仕方ない、ヒントをあげよう。―――素直になりなよ、オドロキくん。それが正解だ」

 低く、そして不思議とよく通る声で落とされた言の葉は、想像以上の威力を持って王泥喜に襲いかかった。まさか、と思ったその答えこそが真実だと、それを持つ男自身から聞かされたのだ。
 全身が一気に沸騰したかの様な錯覚に陥る。否、多分それは事実、そうなのだろう。目の前の男が愉快そうに笑っている。

「顔、真っ赤だよ、オドロキくん」
「だっ、そ、…っれは、仕方、ない、でしょう…!大体、それにどんな意義があるってんですか!矛盾してます!さっき成歩堂さん自身が証言したじゃないですか、僕は無駄な事はしない、って!」
「そうきたか。じゃあオドロキくん。価値観というものは人それぞれだという事を念頭に置いてみてよ」
「価値観、ですか…?」
「そう。そう考えると、矛盾は解消する筈だよ。物事には必ず優先順位がある。そしてそれは自身の価値観によって決められる。どう?」
「でも、成歩堂さんに限ってそんな事は…」
「君ね、素直になりなよって、ついさっき僕は言ったばかりだと思うけど?現に僕はこうやって寒空の中外に出て、此処にこうして居るじゃないか」
「ううう…」

 観念しなよ。
 追い打ちをかける様に告げる成歩堂を恨みがましげに見上げ、それでも王泥喜は吠えた。負けるのは解っていても、無駄にある反骨精神がそれを許さなかった。

「だったら、素直に最初からそう言えば良かったじゃないですか」

 若干いじけた様な口ぶりになってしまったのは、致し方ない事だと思う。赤くなった顔では意味がないと分かっていつつも、精一杯の虚勢を張って相手を睨み付ける。

「でもオドロキくん、キミさ、素直に言ってそれ聞いてくれたかい?」
「うっ!」
「ホラね。だからこんなまだるっこしい事をわざわざやったんじゃないか」
「…俺の所為ですか」
「7割位はね」

 後の3割は、という疑問が過ったが、王泥喜はそれを口にしなかった。きっとこれは彼なりの譲歩なのだ。そしてきっと、これを逃したら再びチャンスが訪れるのは随分先の事になるだろう。彼が何を想い何を考えているのかは分からずとも、それくらいは王泥喜にも理解出来た。
 成歩堂はああ見えて好き嫌いのはっきり分かれる男だ。その中で、こうして彼の内側に少なからず触れられ、そして気紛れではあるけれど更に内面へと触れる事を許される位には、自分はそれなりに好意を持たれているのだろう。今はまだこの位置でも、きっといずれ―――。そんな希望を持つくらいは許されるだろう。
 だから王泥喜は、相手が見せた想いの分だけ、自分もそれに応えた。カラカラに乾いた口で言葉を紡ぐのは一苦労だったが、それを聞いた成歩堂が実に嬉しそうな顔をするのだから、言った意義はあったのだと思う。


「――なら、早く用事を済ませて帰りましょう。…寒いです、成歩堂さん」

 そう言って、王泥喜はやんわりと微笑った。



end.
作品名:君はおりこう 作家名:真赭