逆裁ログ詰め合わせ
「ああ、もう少しで終わっちゃうね」
ふと呟かれた言葉に、思わず顔を上げて隣の人物を見た。
夜の街は予想以上に冷たく寒い。しっかりと防寒をしていても、身を切る様な寒さが全身を襲う。
案の定、寒い寒いとぼやきながら彼は白い息を辺りにまき散らしている。
「だから手袋していきましょうって言ったじゃないですか。それを要らないって、頑なに拒否したのは成歩堂さんですよ」
「そりゃあね。したらつまらないもんねえ」
「は?」
「そうですよ。それは邪道ですよオドロキさん」
「みぬきちゃんまで?!」
親子の訳の分からない拘りも常と変らず、そしてそれに慣れてきている己に苦笑が零れる。
それだけ長い時間彼らと過ごしたという事実が、妙な気恥ずかしさと共に自身に深い感慨を与えた。
「あ!日付!変わりましたよ!!」
「ああ、本当だ」
「家に着く前に、年、明けちゃいましたね」
「えへへ、それじゃあパパ、オドロキさん、」
数歩先を歩いていた少女がくるりと回りこちらを向く。
街灯に照らされた姿はさながらスポットライトを浴びている様で、近い未来を想像させるそれはどこか誇らしく、そして少しだけ寂しい。
彼女は笑う。やわらかに、満面の笑みで。
「あけまして、おめでとうございます!」
今年もパパとみぬきを養って下さいね。
そう言って嬉しそうに笑う彼女に、その父親がよく出来ましたといわんばかりに彼女の頭を撫でる。
目を細めて愛しいものを見詰めるその眼差しはやわらかい。穏やかな表情は確かに親子の絆を感じさせた。
呆、とそれを眺めていると、彼は顔だけをこちらに向け、やんわりと笑んだ。それに不覚にもドキリと心臓が跳ねる。
「今年も宜しくね、オドロキくん」
向けられた言葉はその眸と同じくやわらかで、胸の奥でじわりと込み上げるものを必死で押し殺す。
寒空の中ぬるま湯の様な温かさに浸りながら、帰路を急いだ。
ああどうかまたこうしてこの場所にいられますように。この場所を守れますように。
握られた両の手を同じ強さで握り返しながら強く願う。
―――向けられた笑顔と同等のものを、彼らに返せますように。
end.