逆裁ログ詰め合わせ
「パパ、ねむれないの?」
全てを覆い隠す様に、暗い闇が部屋を埋め尽くす。足元から徐々に呑み込まれるかの様な、それでいて暗闇の中にやわらかく抱かれている様な錯覚を断ち切る様に、小さな手がそっと掌を包んだ。コトリと首を傾げる姿は実に可愛らしい。
然しその可愛らしさとは反して、その大きな眸は不安定に歪み、ゆらゆらと不規則に揺らめいている。
―――情けない、と思った。こんな小さな子供に心配をかけている。
包まれた掌を反して、小さな温もりをぎゅうと握りしめた。
「ごめんね、起しちゃったかな。僕ももう少ししたら寝るから、みぬきちゃんももう寝ようか。明日は早起きしないといけないんだろう?」
「パパ、ぐあいわるいの?なんだかツラそうだよ?」
「そうかな?きっと今日はいっぱい動いたから、色々と疲れちゃったんだよ。僕ももう歳だね」
「でもパパ、イタそうなかおしてる」
やんわりと諭す様に放った拒絶は、強い言葉で返された。聡い子供だとは思っていたけれど、ここまで頑ななのは珍しい。それ程酷い顔を晒していたのだろうか。
益々父親失格だな、と小さく微かに零した溜息を、目の前の子供は見逃さなかった。すかさず首の後ろに両腕を回され、力一杯抱き締められる。ぐえっと情けない潰れた声だけが異様に狭い冷たい空間に響いた。
「いたいのいたいのとんでけーっ!」
どう?治った?と確認する様に顔を覗き込まれ、呆気にとられる。それから遅れて、じわりとした痛み。
「ありがとう、みぬきちゃん。お陰で大分楽になったよ。流石は未来の大魔術師だ」
「うそ」
強い、強い言葉だった。有無を言わせない、断定した、悲しみの言葉だった。
「それはウソだよ。ねえ、パパ。パパはどこにいるの?ちゃんと見えてる?ねえ、みぬきはここにいるよ。パパ、パパ、―――ちゃんと、見えてる?」
みぬきが、みえてる?
必死で紡がれる音は何より雄弁でこれ以上ない程強烈だった。ゆるりとひとつ瞬きを落とす。暗い闇の中にか細い光が見えた。
仄かな光は脆弱で、そして全てをやんわりと包み込む優しさと強さがあった。
ひとつ、瞬きを落とす。
「うん、うん、そうだね。ごめんね。ありがとう。ありがとう、みぬきちゃん。ありがとう」
「―――パパ、」
「随分夜更かししちゃったね。さてと、明日も早いし――― 一緒に、寝ようか」
「!…っうん!!」
早く早くと急かしながら満面の笑みを零すその姿に、目を細める。思わず零れ落ちた笑みに、まだ大丈夫だと思い知らされた。まだ行けるのだと。
足元には相変わらず闇が蠢いているけれども、微かな光が仄かな温度を伴ってこころを照らす。
―――それだけで、生きていける気がした。
end.
*引き取って間もない頃。
でも私はナルホドくんはもっと強い人だと思ってます←