逆裁ログ詰め合わせ
CASE1:
「みぬきに、美味しい傘をあげようか」
天気予報では連日雨マークが続いていて、流石につまんないと呟いたその数時間後、パパは両手に大量の「傘」を抱えてそう言った。
カラフルで色とりどりのそれは中央にポップなロゴが入っていて、でもそれはどこをどう見ても―――
「飴?」
「傘、だよ」
そう言ってまあるい部分の下に付いていた取っ手を掴むと、くるりくるりと回し始めた。
「あ、」
「ね?」
パパは満足した様に笑むと、促す様に視線を窓の外へとやる。
それに倣って雨で幾分かクリアになった窓硝子を覗くと、そこには、正確にはそこから見える景色、には、色んな色が犇めき、擦れ違い、行き交っていた。
「―――あれは、何味かな?」
「そうだなあ。みぬきの好きな、甘いカフェオレ、とかかもしれないね」
「わあ!それは美味しそう!じゃああの紫っぽいのはグレープ味だね!」
下界にくるりと回る飴を眺めながら、増えた思い出。きらりと跳ねて、甘やかに溶けて行く。
―――そんな、ある日の出来事。
CASE2:
「飴?」
「違います。傘、です」
「いや、それはどうみても、」
「傘、です。みぬきが傘って言ったら傘なんです。間違いありません」
「何だよそのムチャクチャな理論は」
「さて、雨に濡れた可哀相なオドロキさん」
「え、あれ?俺ガン無視?」
「そんなんイチイチ気にするから、オドロキさんは何時まで経ってもオドロキさんのままなんですよ」
「ちょ、何その言い草!」
「まあまあ、今のは流す所ですよ。で、です」
「いや今のって明らかに俺侮辱されたよね。流す所じゃ全然なかったよね」
「そんなどうしようもないオドロキさんが哀れで仕方ないので、みぬきが特別に傘をプレゼントしちゃいます!」
「更に酷くなってね?!てか人の話聞いて!」
「さ、この中から好きな傘を選んで下さい!」
「だからこれ、飴って…ああもう!じゃあこれ!これ貰うから!」
「はい、大事にして下さいね!少なくともせめて、帰るまでは残しておいて下さいよ」
「はいはい」
「でないとまた雨に打たれちゃいますよー」
「結局そこ戻るの?!」
CASE3:
「あ、傘」
ソファに陣取る成歩堂さん、の前にあるデスクには色とりどりの、少しばかり目に痛いカラフルな飴が幾つか散らばっている。
重たいまあるい頭が重力に従って下を向き、些細な振動でくるりと回る。透明な雫が遠心力に従い、キラキラと舞い散る錯覚を見て漸く今日が雨だと知った。
「何?欲しいの?」
あんまり見詰めていた所為だろう。問いかける様に首を傾げるその姿に、どもりながらもいいえ、と答えようとして――考えるよりも早く諾、の応えを返していた。
予想外の返答だったのだろう。少しばかり瞠目した彼を同じく珍しい物を見たと驚きに見返せば、これまた珍しく彼は了承の答えを示した。普段どんなに頼んでも彼が溺愛する彼女以外には絶対に分け与える事なんかしないのに。
そうさせる何か、とても良い事でもあったのだろうかと思いながらも、好機を逃す手はない。何色が――味じゃないのか――良い?と聞かれて、ぴりりと走る緊張。
「青い、傘が欲しいです」
「あお?」
「はい。青色の傘で」
―――なら僕は赤色の傘を貰おうかな。
そう言ってやわらかに笑うものだから、絶対に微妙だと分かる泣き笑いに近い様な笑顔を返す他なかった。
ゆっくりと手を伸ばした先は、目に鮮やかな、青。
end.