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Goodbye My Wings03

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レンガ造りの家が窮屈そうに立ち並ぶ住宅街の一角なので見た目は小さく少しボロそうだが中は奥行きがあり、グレイスと二人で住むぶんには問題なかったし、内装はアンティーク調のシエルの趣味に合うものだった。
グレイスは居ないのか部屋は真っ暗だったがシエルは灯りを点けることもなく真ん中にポツンと置かれたソフォーに座りパソコンの電源を入れた。
"alto"と書かれたファイルを開くと画面に羽衣の衣装で着飾った歌舞伎の女形時代のアルトが現れた。
舞台の上で舞う彼を始めて見たのはもうずっと昔のことだ。
あのときギャラクシーで開かれた早乙女一門の歌舞伎公演を見なければ今の自分はいなかったかもしれない、と思う。
きっと生きるために歌う人形、それも本物の人間が現れるまでのスペアの人形になっていただろう。
アルトの舞う姿が、激しい衝撃と共に自分に生きる理由と希望を与えてくれたのだ。
自分とさほど年の変らぬ少年が舞台で観客を惹き付け、人々に感動を与えるその姿が。
本当に美しいと思った。
いつか自分もあんな風に人を惹き付け、魅了する存在になりたいと思った。
だからそのためにどんな努力も惜しまなかったし、売れるためにはなんだってした。
だがそうして自分の希望としてきた人にすら歌をやめろと言われてシエルの胸はひどく痛んだ。
(だけど・・・それも違う。)
裸足の足先が冷たくなりシエルはソファーで膝を抱えた。
「こんなところで・・・ベットで安静にしてなさいって言ったでしょ?」
扉の方に顔を向けるとグレイスが居た。
(俺が歌うのは・・・)
「何でアルトに言った?」
きっとシエルが睨んでもグレイスは物怖じ一つしない。
もうずっと幼い頃から一緒なのだ。
グレイスには子供が拗ねているようにしか見えないのだ。
それでも流石に今回ばかりは申し訳ないと感じるのか、グレイスも眉根を寄せシエルから視線を逸らす。
「彼ならあなたを説得できると思ったのよ。」
「説得って・・・っ!ごほごほっ!!」
ひゅっと息を吸った瞬間また激しく咳き込み出してシエルは前かがみになる。
「・・・シエルッ!」
グレイスが駆け寄ってきてシエルの肩をさすってやるが、口元から放したシエルの手に赤い血が付いているのを見て言葉を詰まらせる。
「V型感染症は手術して感染源である声帯を取らない限り治らないわ。」
それはまさにシエルにとって死の宣告同様。
「そしたら歌えなくなるっ!!」
静かに佇むグレイスを食い入るようにシエルは見つめた。
(だけど、俺が歌うのは・・・)
「ねぇ、シエル。あなたが歌うのは抗体を持った感染者が現れるまでの契約だったでしょ?」
(そう、俺が歌うのはホンモノが現れるまで。)
ギャラクシーのスパイとしてグレイスと行動して歌うのも全てはシエルがV型感染症感染者であるが故だ。
自分から歌を奪おうとする病気によって歌うチャンスを与えられ、歌うチャンスを与えられるが故にアルトのいるマクロス・フロンティアを脅かすシエルという存在。
何をとっても上手くいかないことはわかりきっていた。
「彼に会えなくなってもいいの?」
グレイスは中途半端なんかじゃない。
全てを知っている。
だからシエルには余計に残酷に思えた。
何も応えられずに沈黙を続けるシエルにグレイスが口を開いた。
「V型感染症に感染しても歌い続ける方法があるとすれば?」
シエルにとっては歌がすべてだった。
何かを手に入れるために何かを捨てるのであれば、シエルの答えは決まっていた。


揺らぐ心でグレイスから渡されたチケット。
最初で最後のライブ。


to be continued...



/あとがき
シェリルはどこまで知ってたかわかりませんが、シェリ男は全部知ってて諜報活動おこなってると思われます^^
で、このあとオープン・ランカ!してきたシエルは病んだ心をレオンに慰めてもらいます\(^p^)/
作品名:Goodbye My Wings03 作家名:kokurou