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鉄の棺 石の骸8

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 4.

「――人格データの採取?」
 セキュリティの知り合いが持ってきた依頼は、一風変わった内容のものだった。

「何でまたそんなことになったんだ、牛尾?」
「何でも、新型のライディング・ロイドを開発するのに必要なんだと」
「新型?」
 D-ホイーラーによる犯罪数の増加は、連日のニュースでも報道されるまでになっていた。永久機関モーメントの技術の発達と、シンクロ召喚の急激な進化が原因で、D-ホイーラーが犯罪に手を染めやすくなったのだという。同じD-ホイーラーとしては肩身の狭い話だ。
 犯罪を犯したD-ホイーラーを捕まえる組織としては、デュエル・チェイサーズがいる。しかし、そんな彼らもシンクロを悪用したワンターン・キルに相当手を焼いていた。人員にしても、海千山千のD-ホイーラーに立ち向かえるだけの決闘者はそうそういない。
 なので、セキュリティは新型のライディング・ロイドの開発に力を注ぐ決定をした。
 とは言え、精度の低い通常のAIでは意味がない。並みの決闘者が太刀打ちできないような、高い決闘者レベルの思考ができるライディング・ロイドでないと役に立たない。
 ロイドの頭脳には、有力な決闘者の思考を積まなければならない。その為には、彼らの人格データを採取する必要がある。
 なので、遊星たち有力な決闘者に白羽の矢が立ったという訳だ。

「――くだらん計画だな」
 ふん、と鼻を鳴らし、ジャックはにべもなく断った。
「俺はやらんぞ」
「やっぱり、ダメか? ジャック」
「人の人格データをロボットにブチ込んで決闘させようなど、決闘者をバカにしているとしか思えん。決闘とは、決闘者が面と向かって全力で決闘することにこそ意味がある。それをロボットなんぞで代用しようなど……」
「そう言われるとそうなんだがなあ」
「とか言って、お前自分のコピーができたとして、それにやられるのが嫌なだけだろ」
「ふざけたことをぬかすなクロウ。俺は例え俺であろうとも全力で粉砕してくれる」
 椅子に座ったままふんぞり返って高笑いをするジャックだった。
「あー……言うと思ったぜ……」
 牛尾は、顔に手を当てて首を振った。無駄だと分かっていても聞かなければならない自分に涙が出る。
「じゃあ、クロウは?」
 クロウは、ぺしっと手を合わせて申し訳なさそうに答えた。
「済まねえ、俺もパス。その日、ブラックバードデリバリーの予定が山積みでさ。抜けられる雰囲気じゃねえの」
「そうかー」
 クロウにも断られ、困った顔をして腕組みをする牛尾だった。テーブルの書類をパタパタさせながら、
「全員じゃなきゃダメって訳じゃないんだ。誰か一人くらいでいいから協力してくれねえかなー」
 と言いながらも、牛尾の視線は明らかに遊星の方を向いている。心なしか、目がうるうるしているような。
「なあ、頼むよ。並みの決闘者のデータならともかく、お前みてえな決闘者のデータなんてそうそう見つからねえんだ」
 牛尾は必死だ。何しろ、ここにはキング経験者が二人もいる。ここで二人共逃せば代わりになれる決闘者など見つからないに違いない。
 お人よしだな、と後でジャックに言われそうだ、と思いつつ、遊星は渋々了承した。
「――分かった。やってみる」


 遊星の了承を取り付けて、やたら上機嫌の牛尾にコーヒーを何杯も奢られて。
 三人がようやく解放されたのは、それから一時間半後のことだった。
「なー、遊星。本当によかったのか?」
「ああ」
「牛尾の頼みなど、さっさと断ればよかっただろう。何故わざわざ承知するような真似をした」
「D-ホイーラーの犯罪には、思う所もあるからな。それに、人格データの実験に興味がない訳でもない」
「それなら勝手にすればいいが。大体、俺はバーチャルなんてものは好かん」
「この前の詰めライディングじゃ、ぼろ負けだったもんな、ジャック」
「ふん。俺は効率のいい決闘などではなく、人に魅せる決闘というものをモットーにしているんでな!」
「あー、そうかいそうかい」
「だが、その日の夕方は食事会をするのではなかったのか、遊星。アキや龍亞や龍可も、久々に会えると楽しみにしていたぞ」
「データの採取は、何もなければ午後四時までには終わるらしい。終わったらD-ホイールで戻れば、その日の五時には間に合うはずだ」
 駐輪場で二人と別れ、遊星は寄り道せずにD-ホイールで家に帰ることにした。家には、まだ修理の終わっていない機械が山積みになっている。
「シンクロの進化の行きつく果て……か」
 決闘者たちが進化の象徴としていたシンクロ召喚。そんなシンクロが今、人の欲望の為に汚されている。
 本当に、これが自分たちの求めていた進化なのか。この急激な進化の先に待っているのは、果たして明るい未来なのか……。
 まあいい、今は深く考えまい、と思い直して遊星はD-ホイールを走らせた。

 それにしても、今度の食事会が楽しみだ。その日には、久しぶりに仲間たちに会えるのだから。


(END)


2011/3/5
作品名:鉄の棺 石の骸8 作家名:うるら