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鉄の棺 石の骸8

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 3.

 ここは、自分の研究所なのだと、半透明の男は語った。
 コンピュータに残されていた資料と彼の説明によると、今ここにいる「遊星」は、生前に残されていた人格データから復元された存在なのだという。
「そんな。じゃ、俺は……いや、俺のオリジナルとやらは、もう既に死んでいるというのか……?」
「はい」
「俺の仲間たちも、か?」
「詳しくは知りませんが、恐らくは」
 遊星にはにわかに信じられなかった。ついこの間まで、自分たちは食事会だの何だのと色々予定を話し合っていたはずだ。それが当日に起きてみたら、いきなり未来で復元されて、自分はもう死んだ人間なのだと聞かされている。
「そんな話、信じろとでも言うのか」
〈信じられなくとも、西暦で今何年かを知ったら信じざるを得なくなるでしょう〉
「何年だ」
〈西暦2xxx年です〉
 遊星たちの生きていた時代は、西暦20xx年だ。
「……」
 明かされた衝撃的な事実に、がくり、と遊星は肩を落とした。
「俺は、たった一人で、この世に蘇ってしまったのか」
 力のない声で、彼は自らの孤独な復活を嘆く。
〈……勝手なことをしたとは思っています。本来なら、永久の眠りについていたはずの死者を、私は私を素体にして蘇らせてしまいました〉
「……」
〈到底許される行為ではありませんね。――済みませんでした〉
「俺は……お前に、犠牲を払って貰ってまで、蘇りたくなんかなかった」
 悲しい目をして、遊星はぽつりとつぶやいた。
「どうしてだ。お前だってお前なりの人生があっただろう!? それなのに、死人の俺を蘇らせるために、身体を改造してまで……!」
〈やりたいことが、あるのです〉
「やりたいこと?」
 男は語った。
 人の心を読み取る機械でもあるモーメント。そのモーメントが人の欲望などの負の心を読み取ってしまった。暴走したモーメントに世界中のネットワークが影響され、地球を滅ぼす元凶である人類を滅ぼさんと機皇帝の軍勢を生み出した。世界各地の都市では、機皇帝による人間狩りが毎日のように行われている。
 急激な進化に伴う人の欲望の増長。それは、遊星のいた時代にも片鱗を見せていたことでもあった。
 かつての男は、人の欲望によるモーメント暴走の危険性を人々に訴えた。しかし、人々はそんな彼の訴えを科学者のたわごとだと切り捨てた。
 誰かに理解される為には、自分では無理だ。もっとこう、全ての言葉に説得性を備えた、英雄のような人物の力を借りなければ……。
「だが、何故俺なんだ。適任者なら、俺の他にもいたはずだろう」
〈あなたじゃないとダメなのです〉
 並みの英雄ではダメなのだ。生前に数々の伝説を築き上げた、不動遊星のような英雄でなければ。
 考えた末に、男がやったのは「自分の身体を素体にして、伝説の英雄を復活させる」計画だった。
 その計画が成功して、遊星は今この時代に生きている。
〈私は、世界中の人々の心を善き方向へと導きたい。導いて、いつか来るであろう破滅から、人類を救いたいのです。それをなす為なら、私は身体など惜しくはない〉
「……本気、なのか」
〈はい〉
 半透明の男の瞳には、嘘などなかった。彼は、真剣に世の中の幸福を願い、自らの存在を犠牲にしたのだ。それなら、こちら側も彼に応えてやるべきなのか。
 考え抜いた末に、遊星は彼に応えてやることにした。
 ありがとう、と笑った男の姿が急に大きくぶれ始めた。ぶれて不定形になった半透明の物体は、やがて揺れをゆっくり収めていく。
 後に残ったのは、遊星と瓜二つの姿に変貌した一人の男だった。

 再び身体を手術台に横たえて、片割れが来るのを待ち望む。
 ゆっくりと身体を寄せる相手を、抵抗せずに静かに受け止める。
 触れ合った指の先から、相手の身体がどんどん浸透してくるのが分かる。手も腕も、脚も胴体も、自分の全てが相手と深く繋がっていく。
 繋がる時の染み込むような不思議な感覚が、軽く感電した時のことを思い出させる。気持ち悪いようで、ある種の快楽も強く感じている。
 人間に《融合》を使ったら、恐らくこんな感覚なのだろうか。
 お互いの身体が融合していく最中に、遊星は男に尋ねてみた。
「なあ。俺は、お前を何て呼んだらいい……?」
〈私には、名前はありません。あなたを復活させる時に過去ごと全部捨てました〉
「だが、それでは、お前を呼ぶ時に不便だろう」
〈――それもそうですね。それなら……私は、あなたの後ろに控える者……"Y"の後ろは"Z"。だから、〉

〈私は、「Z-one」(ゾーン)と名乗りましょう〉


――遊星が目を開けると、そこは先ほどと同じ研究所だった。
 違うのは、ミサイル攻撃でも受けたのか半壊状態だったこと。周囲には壊れた機材が大きな瓦礫と一緒に辺り一面に散らばっている。よくこんな状況で生きていられたものだ。
 遊星は、今度は迷わず台を降りた。
 前もって用意された服に着替える。袖を通して、顔の金属に触れてもみた。
「Z-one。顔のこの金属は、取り外しができるのか?」
 何の気なしに遊星が訊いてみると、心の中から答えが返って来た。
〈それはちょっと無理ですね。あなたの全てのデータを再現するのに、どうしてもその機材が必要だったので〉
「そうか……」
〈もう少し、ビジュアルにこだわれたらよかったのですがね。今の技術でも、それが限界でした〉
「いや、別に気にしてはいない。外せるかどうか聞いてみただけだ」
 離れた場所に置かれた遊星号のレプリカは幸い無事だった。エンジンをかけ、遊星はそれに乗って研究所を飛び出して行った。

「Z-one、これからどうする!」
〈機皇帝に襲われている人々を助けましょう。まずはそこからです〉
「分かった! 行こう!」
 一人と「一人」を乗せ、真っ赤なD-ホイールは荒れた道路を駆け抜ける。
 目の前の街からは、黒煙の筋が幾本も空にたなびいているのが見えた。

作品名:鉄の棺 石の骸8 作家名:うるら