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好きよ嫌よも(大好きの枠の内)

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路地裏の黒色の暗がりの口内に半分程呑み込まれそうな、暗い方と同色の真っ黒なひとが居た。僅かに黒ずくめの空間の隙間から覗く、妙に白い肌ばかりが異端を思わせる目立ち具合。
道行く人々は素通りで、俯いて前を歩いて通り過ぎることに忙しい様子で気付いていないらしい。自分一人だけが足を留めてしまったようで、仲間外れにされたようで些か気まずい。ずっと留まっていれば夜を煮込んだような黒色が足元に寄ってきてしまいそうで少しこわい。
声を掛けてみようかと思案し始めた矢先、その黒いひとは面を上げる。思い描いた黒ではなくて、赤色を含んだ瞳と一瞬遭遇する。此方から視線を切って歩き出して道行く人々の仲間に入れて貰おうとしたけれど、後ろからひたひたりと続く足音は耳朶から消えずに、まあどうにかなるかなと不用意な前向きを思って帰路を再び歩み始めたことが最初のミスであった。
拾ったつもりはないけれども、どうやらそう受け取られたらしい。後ろからは楽しそうな鼻歌が流れ始めた。自分の溜息と混じっても尚、楽しさが大よそを占めるとても楽しそうなステップのメロディー。花の甘い香りまで混在しているのは状況の改善策を模索する自分の思い違いだと片付けられはしなかった。
振り返ればいつでも真っ黒さんを視界に収めることが出来るのだが、今は付いてくる蠢く気配だけでお腹が満たされてしまいそうである。どうにかなるかな、が、どうにもならないかなへと変わりつつあるのでお得意の慣れの惰性技に持ち込んでしまおうかなと画策しながら、一人ではない帰宅の途を表面は穏やかに過ごした。