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好きよ嫌よも(大好きの枠の内)

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ほら、俺、人でなしでしょう。

使い古した風な人を惑わす声音の臨也さんが、淡い色が乗った花弁をその白くしなやかな指先を使い挟んでしまえば、瞬く間に花弁はみずみずしさを失い萎れていく。
自分の知る中に、そんな感じのひとがひとりだけぽつりと居る。花から養分を摘むひと、その名も折原臨也さん。一応世間的には知人以上というカテゴリーに含まれてもいいかもしれない存在で、蛇足するのなら、人でなし。
臨也さんが言う処では、付き合いの生じた人からいつでも血も涙もない事実を言い当てられるという。実際正確に的を射ている。体温は温かみがなく寧ろ冷めていて、人でなしらしさを補足するくせして触れたがりであるので唐突な接触から背が震えることもしばしば。そうでありながらも人を愛して止まない臨也さんは構い倒す。尚更嫌がられる悪循環を繰り返す。その度に首を傾げては、こんなに愛しているのにおかしいねと不条理の同意を求めてくる。最早問答が手間になって肯定も否定もしない僕の反応が面白いと評して住まいに気まぐれ気味に入り浸る。
だから花の香りがするあなたの香りが、とっくに此方にも移っているんです。訴えるとふむふむと頷き、少しの間己の内側を探っているような素振りを経て美しい造作で笑む。怖いくらいの華やいだ微笑みで。それから訪問される頻度と嘘くさい愛の囁きが増したので、何処かしら余計なことをしてしまったのだろうなと見当がつき、時を戻したくなるのであった。

深夜。お昼、と僕は呼んでいる。つい明日は寝不足になるラインの丁度真上で、まだ起きていたいからと自分を誤魔化しにかかる為にそう仮名を付けている。機械らしくパソコンの作業音が淡々と部屋に響く時間がすきで、偶に黙々とそのような夜にぽつりぽつりとなりがちである。薄い壁を伝わった幽かな生活音や、真夜中を滑る乗り物の類の立てるものや、静かな己の呼吸が耳にするりと忍び込んでは混ざって溶けて、夜に堆積していく。頻繁にお昼を過ぎるから、多分層になっているだろう。
背中越しの気配の持ち主は未だ自分の棲家に帰らない。ここいらでおやすみなさいという挨拶でもって追い出すのだが、今日はそんな気分になれなかった。臨也さんがいつにも増して、花の香りを纏わせているからである。目新しいことを彼が始めたならば、それは一見深い意味が含まれていないようにみえたとしても要注意。餌付けの済んでいない野良のように幾日かをふっつりと姿を消す稀の休息を挟み、本日も断りなく立ち寄られた折りに、よい夜だねえという慣らされた挨拶の後に鼻孔をくすぐった香りについて尋ねれば、今日通り掛かった花屋のお姉さんにプレゼントしてもらっちゃったんだとにっこり微笑む。此方もそれはそれはよかったですねと笑みを返す。お姉さんには災難でしたねと心中で労わる。そののち妙に静かな臨也さんを放っておいたことが効いているのだろうか。そうだとしても、事を始めたのは臨也さんであって僕じゃないからと控えめに収め処を模索している。人でなしは人の心の機敏さへの理解がいまひとつ苦手らしい。また訳のわからない方向に迷走する。振り回されるしかない此方としては、もっと人付き合いを上達してくれないかなと無理なことを望む。
少しして痺れを切らしたらしき臨也さんがこうのたまう。
「よい夜が終わってしまう前に、うちに泊まらない?」
と、そんな風に尋ねてきたので答えは定まっている。
「御免こうむります。心臓を持っていかれそうで」
表向きの意味に取らせるニュアンスで返事を返す。隠した本音は流石にまだお泊りは心臓が保つがどうか分からない、という感じである。泊まりとはそういった意味であるのは遅れている自分でもわかる。変な一線は尊重する彼だって抵抗が本気でないともしも察したら、一旦そう事が運べば、恐らくなし崩しとなるであろう。いつからか迷惑に思っていたのに心は様変わりしている。だって、向けられる好意に意識しないでいられようか。
「じゃあもういいよ」
おやおや。測りきれない程長生きをしている年上のひとが拗ねた調子でへそを曲げる。足元にあった影がうごめく。帰ろうとする彼に背中越しで今更な言葉を投げてみる。
「臨也さん、分かり難いです」
ざわめいていた黒いものは、鯉を水面下に飼う池のようにとろみある静かさへと収まっていくのを気配で感じた。変にこじれる前に折れる役割を、普通の人々も此方と大差なく恋愛関係を築いたら片方が請け負っているのではないかという気がした。
もう、これは本格的に戻れそうにない。あの頃の対応がとても遠くて、遠過ぎて。けれどあの頃と今は中継地点を辿らずとも繋がっていることが明らかで。
「帝人くんてば、俺のようなひとだね」
はいはいと正面から与えられる冷たい体温を抱き留めながら律儀に返事をする。さらさらとした黒髪を撫でる。
「本気だよ?」
だったらもう少しばかり、態度を紳士なものにせめて表向きでもいいので装って欲しい。不確かな好意程嫌なものはないのだから。好意を好意で返すことを躊躇わせないで下さいね。