好きよ嫌よも(大好きの枠の内)
人でなし臨也さんと夜デート/
池袋は夜でも賑わしくて、田舎者には真昼にも勘違いをしてしまう。けれども明かりが届かない領域は駆逐されきっていないので、そんな処でそんな時、臨也さんの姿を観賞出来得たらとてもお得な心持ちがする。何故って、かのひとは夜を纏いながらにして埋もれず、発光するのだから。
本当の処、彼の気配が大変濃い時間帯、自室以外で逢う勇気はなかったけれども。いつも通りの気ままな侵入を許したとある宵口、ご本人からのお誘いというきっかけがあったので思い切りをつけてみた。
とてもとてもお綺麗ですね。
そうかな。
蛍よか揺らがずに、月明かりよりも朧気に夜に咲く一輪の華のように仄かに光るひとと夜が溢れる路を歩む。
口に含めば淡く蕩けてしまいそうな錯覚の阻害に物怖じしている此方をちっとも考慮せず、いとも自然な仕草で、それこそ髪をかき上げるのと同じくらい簡単に夜気に当てられて冷えた手を繋いでくる。
さあ、出掛けようか。
そのような一言だけで充分なので即刻唆され連れ出される。臨也さんは少しも足元がこわくないのだから、淀みない彼自身の持つ歩幅にしてもいい筈であるのに丁重に己のペースに調律してくる。
先導するひとの性質と同じようにくねくねと曲がり暫くしたら、辺り一面、人の気配が遠ざかった何処かにこっそりと辿り着いていた。真正面に立たされる。
キス、してもいい?
どうしましょ。
彼に習って捻った返事をした。しかして眼前に迫る睫毛の作る影ですら目を離せなくなりそうになった。鼻孔を犯す花の香りに思考を蹂躙された。ずるい。こうされると、どうにも喋れなくなるではないか。全く、聴こえないふりとは、なんともいかがわしいおひと。
鮮度の低い睦言でさえ、甘過ぎる声音にかかれば体温を上げるのも容易い。緩慢な否定は通用しない。小癪にも、冗談の反対を真摯と逆の表現を使用して紡がれる時、あなた以外をすきになりたかった、あなたではないひとに恋をしたかったとよぎる思考ですら嘘になる。この根付いた気持ちを手折ってしまって、何処か目の届かない処へと追いやってしまえたのならば、どんなに。
感情という塞き止められないものに幾ら制止の声を掛けようと、僅かにも意味を成さないのは分かってはいる。愛用の諦観は今こそ用いるものであるのでその通りにする。己の脳で認知する本当のことはそれに関して、ただ一つだけでいい。所謂己の理想に沿うならば。吐息よりも近くで、心臓よりも遠くで息をしていて欲しいから、無抵抗にまな板の上に居てあげるのだ。いただきますの前にはすきだと囁いてくれたら、言い残す抗議もありませんとも。大人しく、しげしげと心臓を圧迫する凶器を受け入れてあげますから。
そう、これはつまりはこじらせた恋なのです。
池袋は夜でも賑わしくて、田舎者には真昼にも勘違いをしてしまう。けれども明かりが届かない領域は駆逐されきっていないので、そんな処でそんな時、臨也さんの姿を観賞出来得たらとてもお得な心持ちがする。何故って、かのひとは夜を纏いながらにして埋もれず、発光するのだから。
本当の処、彼の気配が大変濃い時間帯、自室以外で逢う勇気はなかったけれども。いつも通りの気ままな侵入を許したとある宵口、ご本人からのお誘いというきっかけがあったので思い切りをつけてみた。
とてもとてもお綺麗ですね。
そうかな。
蛍よか揺らがずに、月明かりよりも朧気に夜に咲く一輪の華のように仄かに光るひとと夜が溢れる路を歩む。
口に含めば淡く蕩けてしまいそうな錯覚の阻害に物怖じしている此方をちっとも考慮せず、いとも自然な仕草で、それこそ髪をかき上げるのと同じくらい簡単に夜気に当てられて冷えた手を繋いでくる。
さあ、出掛けようか。
そのような一言だけで充分なので即刻唆され連れ出される。臨也さんは少しも足元がこわくないのだから、淀みない彼自身の持つ歩幅にしてもいい筈であるのに丁重に己のペースに調律してくる。
先導するひとの性質と同じようにくねくねと曲がり暫くしたら、辺り一面、人の気配が遠ざかった何処かにこっそりと辿り着いていた。真正面に立たされる。
キス、してもいい?
どうしましょ。
彼に習って捻った返事をした。しかして眼前に迫る睫毛の作る影ですら目を離せなくなりそうになった。鼻孔を犯す花の香りに思考を蹂躙された。ずるい。こうされると、どうにも喋れなくなるではないか。全く、聴こえないふりとは、なんともいかがわしいおひと。
鮮度の低い睦言でさえ、甘過ぎる声音にかかれば体温を上げるのも容易い。緩慢な否定は通用しない。小癪にも、冗談の反対を真摯と逆の表現を使用して紡がれる時、あなた以外をすきになりたかった、あなたではないひとに恋をしたかったとよぎる思考ですら嘘になる。この根付いた気持ちを手折ってしまって、何処か目の届かない処へと追いやってしまえたのならば、どんなに。
感情という塞き止められないものに幾ら制止の声を掛けようと、僅かにも意味を成さないのは分かってはいる。愛用の諦観は今こそ用いるものであるのでその通りにする。己の脳で認知する本当のことはそれに関して、ただ一つだけでいい。所謂己の理想に沿うならば。吐息よりも近くで、心臓よりも遠くで息をしていて欲しいから、無抵抗にまな板の上に居てあげるのだ。いただきますの前にはすきだと囁いてくれたら、言い残す抗議もありませんとも。大人しく、しげしげと心臓を圧迫する凶器を受け入れてあげますから。
そう、これはつまりはこじらせた恋なのです。
作品名:好きよ嫌よも(大好きの枠の内) 作家名:じゃく