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光彩トッカータ

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 前回、久しぶりに山本と二人でご飯を食べた時にはオレ獄寺と付き合ってるんだよねという爆弾発言を投下されオレは盛大に驚いたんだけど、今日も山本と二人でご飯を食べていたら、山本は凄いことを言い出した。
 いや、まぁ、不用意なオレのフリも悪いんだけどさ。


「ツナへのアレは獄寺のオナニーみたいなもんだと思ってるから、オレ」
 オレはブハッと飲んでた物を噴出した。ちょ、ちょっと山本……!?
 しょうがねぇなって感じにナプキンを手渡してくれる山本に戸惑いながらも受け取って口元を拭う。
「山本ってさぁ、たまに獄寺君よりも心臓に悪いこと言うよね」
「ははっ、そうか?」
「そうだよ、もう…………明日から獄寺君に会ったらどう対応していいか困るじゃん。ちょっとひいちゃうかもしれないよ」
「大丈夫だって。ツナ昔っから獄寺にドン引きだったじゃん」
 山本それフォローになってない。
「……それ、獄寺君に言ったら爆破されるんじゃない?」
 爆破で済めばまだマシかもしれないけど……何にしても二人の本気の喧嘩は周りが困って頂けないのだ。出来れば止めて欲しい。
「オレ言わないもん、ツナが言わなきゃ平気じゃね?」
 そう言ってにっこり笑う山本の顔はそれはそれは爽やかで、セリフとのちぐはぐっぷりの相乗効果で妙な迫力があった。
 こういう山本の顔を見てると高校時代を思い出す。


 高校の頃の山本はけっこう酷い男だったと思う。いや、違うか。酷いって言うと語弊がある気がする。女の子に対して酷い……かな。あんまり変わらない気もするけど、だいぶ違う。
 中学の頃から山本は女の子に人気があったけど、高校はもっと凄かった。甲子園までとは行かなくても、地元の予選なんかじゃイイ線いってて、そりゃあもう女の子にモッテモテだった。
 中学の頃と決定的に違ったのは、まぁ、山本が女の子を多少相手にするようになったことだ。健全な男子高校生として普通のことなんだろうけど、山本の場合は規模が違った。中学の頃と違って学校内だけじゃなくて他校にもファンクラブが存在したとかしないとか。まぁ、それぐらい凄かった。
 山本の恰好良さにクラッときて、山本の笑顔でコロッといって、優しさでメロメロになる、らしい。当時のクラスメイトの真剣な顔とセリフのギャップで未だに忘れられないフレーズだ。
 でも女の子と仲良くしても、山本は特定の女の子と付き合うということはほとんどなかったと思う。付き合ってるっぽいことをしてるように見えても、山本にはそんな気がなくて、そんな状態で女の子が告白してもフラれるなんてことはザラだった。基本が人当たりの良い山本に、その優しさの種類を勘違いした女の子同士でモメたりもしていて何だかなぁと思っていた。

 山本の凄い所は、そういうことをしても女の子から恨まれないことだった。告白されてもオレそんな気ないんだゴメンって言葉一つで、女の子の方が勘違いしてた自分を責める有様だった。

 まぁ、何でそんなことオレが知ってるかって言うと、そういう場面に度々出くわしたからというのもあるし、女の子の怒りの対象がオレになることもあったからだった。
 あの頃の山本の優先順位は分かりやすくて、野球かオレ達がいつも一番だった。そのせいで、女の子の八つ当たりの対象にされることがあったのだ。
 野球を責める訳には行かないから、生身のオレに怒りをぶつけてやるってことらしい。そういう時は獄寺君が目聡く見つけて女の子を追い払ってくれることが多くて、助かっていた。オレはどうしても女の子に強くは言えなかったから。

 そんな山本を見る獄寺君の視線はとても冷ややかだった気がする。オレが絡むと十代目を巻き込むんじゃねェって烈火の如く怒ってたけど、それ以外では口を挟むことはあんまりなかった。でも、だからこそ獄寺君だって、山本がどういう奴か知ってるはずなんだよなぁ。


「何だよ、ツナ。黙り込んで。獄寺に言うか悩んでんの?」
 そう言う山本は、ニヤニヤと笑っててオレが言っても言わなくてもどっちでもいいって感じだった。明らかに面白がっている。
 昔は山本の本気と冗談の区別があんまり付かなかったけど、今では流石に少しぐらいは分かるようになっているのだ。オレが学んだのか山本が分かりやすくしてくれてるのか。まぁ、両方なのかな。
 そして二人のことを聞いてからこういう山本を見るたびに思う。獄寺君なら恋人なんて選び放題だと思うんだけど、何で山本なんだろうって。ホントにいいの? とちょっと心配になってしまう。友達として。まぁ、山本にも同じことが言えるんだけどさ。
「違うよ、獄寺君はよりによって何でこんなのと付き合ってるのかなーって考えてただけ」
「んー、そりゃオレが良い男だからじゃね?」
「よっく言うよ……」
 でもこれは多分本気だ。普通なら馬鹿なこと言ってるんじゃないって切り捨てられるか笑われるようなセリフだけど、山本が言ったらたいていの人間は言葉に詰まりつつも納得してしまうに違いない。神様って依怙贔屓だ。
「だって、獄寺君もオレと一緒で山本が酷いことなんて嫌って程知ってる訳だしさぁ」
「えー、さっきからツナちょっと酷くない?」
「オレ、大事な女の子は山本に絶対紹介したくないって思うし」
「親友の女に手ぇ出したりしないって」
「そうじゃなくて。知り合いの娘さんとか、そういうレベルでも紹介したくないよ」
「まぁ、そう言うなって」
 全く悪びれないんだからなー、もう。友達としては大親友って言ってもいいぐらいで、信頼してるし一緒だったら何だって出来る気もしてる。何かあったら絶対飛んでくって思ってるし助けてくれるって知ってるよ。でも、色恋沙汰ってなると話は別なんです。
「まぁ、衝撃のカミングアウトからそこそこ経つけど……未だに信じられない感じがするんだよねぇ、オレ」
「そうか? うーん、そうか、そうなのかな、やっぱそうだよなぁ。オレと獄寺だしなー」
「二人が何だかんだ言いつつ最初の頃と違って仲良く――――って言うと何か違う気がするけど、一緒にいるのが凄く自然になってる気はしてたけどさ。獄寺君が山本をってのがどうしても想像できなくて」
「なにそれ、オレが獄寺をってのは分かんの?」
「うん、だって山本昔っから獄寺君のことかまいまくってたじゃん。どんなに邪険にされても」
「ははっ、ひでー言われようだな」
「でもホントのことじゃん」
「昔の獄寺尖ってたもんなー。今でも尖ってるけど、それでもだいぶ丸くなったよな」
「そうだねー、そういう意味じゃオレ達の中では獄寺君が一番変わったかもねぇ。でも、だからってそれは関係ないでしょ」
「そうかな。うーん、でもオレは獄寺の方がオレのこと大好きだと思うけど……っと、ヤベのろけちゃったオレ」
「………………」
「あれ? ツナ?」
 何がやっぱりで、どうしてそうなるのかはオレにはわからない。けど、へらっと男前な相貌を崩して笑う山本は、この様子からして本気なんだろう。
 そういえば山本からは獄寺君とのことを打ち明けられたけど、獄寺君からは聞いていない。それにカミングアウトからこっちそういう風に二人を見てみても、全然それっぽい感じもしなかった。まさか山本の壮大な妄想ということは……。
作品名:光彩トッカータ 作家名:高梨チナ