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つわものどもが…■04

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04:どうしても戻らない記憶





side:M

温かい陽射しにほんの少し肌寒い風がそよぐ春、四月。清々しい青空のもと本日我が校は入学式。今は式典を終えた新入生とそいつ等を目当てに集まったサークル勧誘の在校生で賑わっていた。
俺はと言えば…辛うじて進級できた事に対しての苦言を賜りに、ゼミの教授のご機嫌伺いに足を運んだ次第。しちめんどくせー。
学部の後輩やら助っ人をした事がある運動系サークルの知り合いが新人の勧誘合戦に俺を担ぎ出そうとするのを振り切って、人で溢れかえる通路を横目に校舎裏へと向かった。関係者用駐車場を抜けて通用門に抜ける連絡通路を使う事にする。普段はあまり使わない経路だが、今日は俺同様に正門に続く通路の混雑を避けようと考える在校生がちらほらと見える。そんな中、俺は前方に見知った人物を見付けた。
「よぅ、元就!お前ぇも登校してたのかよ」
小走りに駆け寄って、肩を軽く叩くようにして注意をひく。と、険しい眼差しがちらりと寄越されただけで立ち止まりもしやがらねぇ。まぁ長い付き合いで慣れた事、なんせ子供の頃から…いや、戦乱の世からの付き合いだ。
「相変わらずだなぁ…ったく」
返事はないが特に拒絶も示さないので取り敢えず並んで歩く。
「院生はこんな日でも教授のヘルプか?忙しいンだなぁ」
同い年のこの幼馴染は、今は大学院の院生をしている。ちょっとした事情で俺はまだ三回生だけどな。
「毎年思うンだが、入学式はオマケでメインはサークルの勧誘だよなぁ」
規則的に植えられた木立の向こうから歓声やら万歳三唱やらが聞こえる。合格発表の時もそうだが、今日も特異な盛り上がり方だ。返事はないものと前提して並行している元就に話しかけていると、
「ちっ……囂(かまびす)しい。何故ここにおる」
舌打ちと共に答えがあった。
「そう言うなや。表門は新入生とサークルのヤツ等でごったがえしてっからなぁ」
「……気安く話しかけるでないわ」
まぁ、このぐらいの物言いは挨拶程度だ。気にせず一方的に話をする。本当に嫌がっているなら何らかの攻撃と拒絶が寄越されるので、それがないうちは気にしない。
空は澄み麗らかな陽光降り注ぐ大学構内の連絡通路を歩く俺達は、どこからどうみても平穏なただの学生。未だ心中に棲むかつての俺達には、想像できなかった世界がこの目の前に広がっている。
と、通用門に続く車道(俺達はその脇にある歩道を歩いている)を、やけにぴっかぴかなセダンが走ってくるのが見えた。この車道の先にあるのは教職員もしくは許可を得た関係者しか乗り入れ出来ない駐車場だ。式典も終わったこんな午後に、商用車とは思えない車が入ってくるなんて珍しい。
俺は見るとはなしに、その漆黒の車を見送った。
「あー、そう言やぁもう昼過ぎてんだなァ…あんた腹減らね?」
「例えそうだとして、きさま如きに答える謂われはない」
なるほど、こいつも空腹な訳か。回りくどい答えに、俺は近くの洋食屋を幾つか思い起こしていた。
その時──
運命の悪戯というのがあるなら、まさにコレを言うんじゃねぇか、そんな出来事が起こった。
バタン、と車のドアを閉める音が耳に入る。そんなものは日常の雑多な、いわゆる生活騒音だ。だが、その後の音が俺の…否、俺達の日常を一変させた。

「Hey,小十郎!こっちだ」
「政宗様」

聞き慣れた会話。違う、厳密には聞き覚えのある会話だ。
俺は思わず足を止めた。これは夢か?願望が招いた都合のいい幻聴か?
そうじゃねぇ……何故なら、立ち止まった俺の隣に、珍しく驚いたような表情を顕わにした元就が立ち尽くしていたから。
互いに何を言うでもなく、ゆるりと首を巡らせる。俺のひとつ目と元就の切れ長な瞳がかち合い、そのまま後方へと視線を向けた。
果たして…
関係者用駐車場の入り口に、さっき俺が眺めていた車が止まっていた。そして、運転席から出てきたらしい男が校舎の方から小走りに走り寄ってくるスーツ姿の女に手を翳している。
「思ったより早かったな」
「それでも政宗様の晴れ舞台に間に合いませんでした」
光沢のあるシルバーの上下に艶やかな蒼のストールを羽織った女は、明らかに政宗と呼ばれている。
「晴れ舞台って…big talk,ただの入学式だろ」
肩にかかる鳶色の髪が、微苦笑を浮かべて肩を竦める女の仕種に合わせるように揺れる。まるで昨日の事のように、古い記憶が呼び起こされる。
「い…ま、確かに聞こえた、よな?」
視線は、薄い笑みを浮かべて対峙する男と喋っている「政宗」に固定したまま、ぼそりと呟いた。
「……、」
「まさむね、って」
「少し黙れ」
みっともなく揺れる俺の声を遮るように、元就が常にない低い調子で言って寄越した。俺たちは不自然に歩道で足を止め、駐車場の端で繰り広げられる何て事ない会話に耳をそばだてている。
「ところで、こんな送り迎えは今日だけだよな、小十郎?」
車の傍近くまできた彼女の為に、男が…あぁあの頬傷は間違いない、右目だ、アイツが後部座席のドアを開けてやっている。
「政宗様がご希望とあらば、毎日でも吝かではございませんが」
「Don’t be silly!今日だけで十分だ」
しかし開けられたドアからストールと荷物を放りこんだだけで、政宗は自分で助手席のドアを開けた。
「政宗様、後ろにお乗り下さい」
「How so?小十郎の運転なら危険なんてないだろ?ナンか嫌なんだよ…俺だけ後ろに乗ンの」
あぁ腹立たしいくらいの信頼関係は相変わらずなのか。
政宗が車に乗り込もうとして、だが視線が俺(なのか元就なのかは分からねぇが、俺だと思いたい)とかち合う。
「如何なさいましたか、政宗様?」
そう言って、右目が訝しげにこちらを振り向いた。途端、その目に険呑な光が宿る。まぁガン見してた自覚はあるが…
「Hey,兄さん方、なにガンくれてやがんだ?あァ?」
アンタ…今生じゃあ女なんだろ、その言い草はどうかと思うぞ。
「あ、いや、ガン飛ばしてた訳じゃぁねえんだがよぉ、」
言いながら、俺の脚は自然と政宗の元へと進んでいた。が、
「政宗様、相手になさいますな。参りましょう」
右目がさらりと言い捨てた。おいおい、冗談じゃねぇ、やっと見付けた竜をそうみすみす逃すかってんだ。
俺は足早に車に向かった。が、それより早く、助手席に政宗を座らせて、右目は運転席へと収まった。そして制止の声をあげる俺の横を走り過ぎて行った。
ちくしょう!!
車は低いエンジン音を残して、まだ立ち尽くしたままの元就をも置き去りにして走り過ぎた。
運転席側の歩道に立っていたんだ、きっと右目は元就にも気付いたに違いない。
「今の、」
心持ち重い足を擦るようにして戻ると、元就は無言で俺を一瞥し、そのまま視線を足元へと向けた。そこを見ろ、と言いたげな(分かりたくないが長年の付き合いで分かってしまう)動きに、俺も足元を見遣る。
そこには、白い小さな紙片が打ち捨てられていて。
「?なんだ、これ」
拾い上げると、それは名刺だった。
「…片倉、小十郎。ヤロウ、やっぱりそうなんじゃねーか!」
名刺に書かれた名を音にして読んで、俺は思わず拳を握りしめた。ぐしゃり、と名刺がひん曲がったが気にしな…
「愚か者が」
作品名:つわものどもが…■04 作家名:久我直樹