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つわものどもが…■04

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声と同時、顔の左側面に衝撃が襲う。元就…遠心力使ってまで鞄で殴んの止めろ!
「我の前を過ぎる際、投げて寄越しおった。視線は合わなんだ、政宗には内密の行動だろう」
珍しく多くを語ってくれているが肝心のところが分かり辛い。
「つまり…?」
「その派手な頭には大鋸屑(おがくず)でも詰まっておるのか?」
小馬鹿にしたように(いや明らかに馬鹿にしてやがるんだろうが)口の端を器用に持ち上げて、元就は俺の握りしめている名刺を指差した。
「連絡を寄越せと言っておるのだろう。携帯か何か、記されておらんか?」
言われて、俺は手の力を抜いて改めて名刺を見た。企業名に続いて所属部署、直通の固定電話の番号と、携帯と思われる番号が確かに印字されている。
「なんぞ、ありそうではあるな」
元就が小さく吐息しながら溢した言葉は、俺には記号の羅列程度にしか認識できていなかった。





side:K

まさか、こんなところで───

予定されていたミーティングも恙無く終了し、昼休憩に入る時間には既にブリーフケースを片手に俺はエレベーターに乗り込んでいた。会社から政宗様の大学まで、そう掛からない。本来なら式典にも参加したかったのだが、仕事が入ってしまっては仕方ない。せめてお迎えにあがり、今日のよき日を共にお慶び申し上げたいと思い、俺は車を走らせた。
事前に乗り入れの許可を得ていたので、車ごと大学構内まで入る。そこで、まさかの出来事が待っているなど露ほども知らずに。
駐車場の端に車を止めると、直ぐに政宗様が此方を見付けて下さった。
小走りに駆け寄ってこられる主君を迎え、車の後部座席のドアを開けると拒否の意を示された。これまでにもあった事ではあるが、安全面を考えて運転席の後ろに座って頂きたいのが本音だ。しかし政宗様は「ひとりで後ろに乗るのが嫌だ」と仰られ、助手席に乗ろうとなさる。
その時だった。
動きを止めた政宗様が、
「Hey,兄さん方、なにガンくれてやがんだ?あァ?」
不快そうに声をあげられた。誰に言ったのかと視線を向けてみれば…
物言いたげに此方を見遣る学生と思しき男に、否、男達に、俺は瞬時にその正体を悟った。
瀬戸内で覇権を争っていた、あのふたりだ。
「政宗様、相手になさいますな。参りましょう」
なるべく抑揚なく言って、まだ訝しげな様子の政宗様を助手席に座らせる。ドアを閉めると、派手な白銀の髪をおっ立てた…長曾我部が走り寄ってきた。俺は急ぎ運転席に回ると、速やかに車を発進させた。外で何か喚いているようだったが、窓を閉め切っていて中までは聞こえてこない。
「まだ学校に知り合いなんて居ない筈なんだけど…」
後ろを振り返りながら気になさる主君に、
「人違いか何かでしょう」
当たり障りのない答えを返す。と、もうひとりの…毛利が歩道に立っているのが見えて、俺は咄嗟に上着の内ポケットから名刺を一枚抜き出し、わずか開けた窓の隙間からそれを放った。敏い男だ、こちらの意図に気付くに違いない。
「ところで、これからどうなさいますか?」
「どう、とは?」
まだ憮然とした様子で前に向き直った政宗様が問い返してくる。
「どこかで立ち寄りたい場所などありませんか?」
ルームミラーで後ろを見遣るが、流石に車を追うような馬鹿な真似はしてこない。通用門で入庫証を返し、そのまま一般道に出る。
「Hum…そうだなぁ、あ、夕飯どうするよ?ナンか買い物して帰るか?」
信号で止まったタイミングでちらりと助手席を見遣ると、ハイヒールを脱いで膝を抱え込むようにして座っておられる。おとなびたスーツを着ておられても稚さを残す様子が微笑ましい。俺は後部座席に置かれていた政宗様のショールを取り、立てた膝に掛けて差し上げた。……ダッシュボードがあるとはいえ、誉められた格好ではないからな。
「ここ最近、夕飯は政宗様に頼り切りでしたから、今日は小十郎が何か作りましょうか」
「Yeah!恩は売っとくもんだなぁ」
政宗様の大学進学と同時期に、俺はこちらの支社に転勤となった。出勤の都合で入学式よりだいぶ早く転居してきたが、手間は一度で済まそうと仰って政宗様も同時に入居された。つまりは同居している訳だが、それまでも住み込みの生活をしていた為に場所が変わっただけで馴染むのに時間はかからなかった。まぁ社長であり政宗様の父君であるところの輝宗様の思惑として、大事な一人娘を一人暮らしさせるより俺を保護者として傍に置いておきたかったのだろうが。…俺とて健全な成人男子である事を失念なさっておられませんか、輝宗様。
「小十郎、信号!」
おっと、考え事をしている間に信号が変わっていたか。失礼、と謝辞を述べて俺はギアをドライブに入れ、アクセルを踏んだ。
ともあれ、仕事に行く俺と違ってまだ大学が始まっていなかった間は時間に余裕のあった政宗様が家事の凡そを賄って下さっていた。今日くらいは何もせずにいて頂きたい。
「何が食べたいですか、と言っても小十郎の作れる物など大してありませんが」
「そぉかぁ?俺は小十郎の作るもん、好きだぜ」
さらりと告げられた言葉が面映ゆい。礼を言えば、金平牛蒡が作れるオトコなんてそうそう居ない、と笑って返された。誉めて頂いたのか、からかわれたのか。
他愛ない会話を楽しみながらハンドルを握っていると、後部座席に置いたブリーフケースから電子音が響いてきた。携帯電話のデフォルトの呼び出し音だ。
「いいのか?」
「後で確認して折り返しますから大丈夫ですよ」
早速かけてきやがったか。内心穏やかでなかったが、それをおくびにも出さず殊更ゆっくりした口調で返す。どうせ運転中に出る事は出来ないし、まして政宗様の前で話すつもりもない。携帯は少しの間やかましく鳴り続けたが、やがて沈黙した。
しばらく車を走らせ、今の住まいとしているマンションからほど近いショッピングモールに入る。施設のメインとなっている大型食料品スーパーは品数も多く価格も手頃であるので俺も政宗様も気に入っているスポットだ。
俺はブリーフケースから財布と携帯だけ取り出して、政宗様に並んでスーパーへと向かった。
と、内ポケットに入れていた携帯が着信を知らせてきた。
「Which reminds me,さっきも掛かってきてたな。出ろよ、俺は適当に見てるから」
言い置いて、政宗様はスーパーに入って行かれた。チッ、もう少し待てねぇのかアイツ等は。
俺はやかましく主張を続ける携帯を取り出した。サブウィンドウには見覚えのない番号。だが、先程のどちらかのものだろう。
「もしもし、片倉だが」
『……分かってンだろ、』
機械越しに籠った声。それでも直観的に、分かる。
「……西海の、か」
『ご名答』
「せっかちな事だ、もう少し時間をあけてくるかと思ったがな」
若しくは此方の意図に気付かないか、と思ったが、それは言わないでおく。
『これでも堪えてンだ』
「ほざけ」
店舗の入り口付近に灰皿を見付け、俺はポケットから煙草を出して咥えた。
『テメェと下らねぇ話する為に掛けたンじゃねぇよ』
そりゃそうだろう、此方とて同じだ。
『俺の言いたい事、分かってンだろう?竜の右目よぉ』
「その事だが…」
さして旨くもない煙草を深く吸い込み、ゆっくりと吐き出してから、
作品名:つわものどもが…■04 作家名:久我直樹