千年桜に約束
「本当…人間って脆い生き物だね」
生きる時間が違う、そんな当たり前のことを今更ながら思い知らされる。
目を瞑れば昨日のことのようにあの日の情景を思い起こせるのに、この桜は毎年同じ様に花を咲かすのに。
この桜の木の下で約束を交わした当の本人はもう――。
『いざ、や…さん』
『約そ、く…守れ…なく、て、ごめ……なさ、い』
『ごめんなさい』と何回も、泣きじゃくりながら臨也に謝っていた子供。
病魔に侵された身体は日に日に弱り、見た目も痛々しい姿になっていた。
よろよろと伸ばされた手を慌てて掴めば、今にも消えてしまいそうな温度がそこにはあり、それだけで酷く泣きそうになった。
『いざ、やさん、』
『帝人、帝人…っ』
『も…縛られ、なくて…いいんです、よ?』
『…ぇ、』
『僕なんか、の約、束に…しば、られなく、て…もう、』
ごめんなさい、せっかくやくそくしてくれたのに。ゆびきりげんまんしたのに。
うそつきになってごめんなさい。
ぼろぼろと泣きじゃくりながら、それでも言葉を懸命に紡ぐ。
何時途切れてしまうかわからないそれを一言一句逃さないように聴きながら、手を握る力を込めていた。
「いざやさん、」と昔みたく帝人はふにゃりと笑って、そして。
『臨也…さん。…あり、がとう』
ぽろ、と一粒の涙が零れたと同時に紡がれた言葉を最後に、晴れた日の空の色をした双眸を見ることはなかった。
桜の儚さに子供が重なった。
とても綺麗で美しいのに、あっけなく散ってしまった子供。あの日交わした約束と一緒に。
「嘘吐きは嫌いだよ……約束を守らない子なんてもってのほかだ」
でも、君だから許してしまうんだよね。俺も甘くなったな。
生きる時間が違う存在を愛してしまった時から、こんな日が来ることは分かっていた筈なのに。
受け入れることが出来ない自分は本当に馬鹿で愚かで、どうしようもなくて。
(俺はまた、途方もない時間を一人生きていくんだ)
けれど。
何時かそんな悠久の中で、君という存在にまた会えたとしたら、その時は。
(君の傍にあることを、この桜の木に約束するから)
すると、突如ぶわりと風が吹いて花弁が一気に舞い上がる。
釣られて臨也が顔を上げると、空の青に薄紅のそれがとても映えていて、一瞬にして目を奪われた。
まるで子供が返事をしてくれたかのような、そんな馬鹿みたいな錯覚に陥って臨也は笑う。
錯覚でもいい。俺は、
「ずっと君を、 」
風に掻き消された告白を受け止めるかのように、ただあの子供の眼と同じ色をした空がそこにはあった。