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虚像を愛した罰をやる

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掴まれた手首の握力が増して、少しだけ痛みが生じた。
ズキリとする手首の感覚を感じながら青年を見つめれば。

同じく見つめ返されて、その瞳に吸い込まれる。


「お前さ、自分がどれだけ危なっかしいか、分かってんの?」

は…、と首を傾げて何のことだと意思表示もままならない。
手首を片手で一纏めにされると、もう一方の手で顎を固定された。

「ッ……?」

瞳だけで困惑の意を示せば、伝わったのか。
今度は先程の言葉の意味合いを教えてくれる。

「消えちまいそうなくらい顔が歪んでるぜ」
「、そうですかー?」

少女は言った。分からない、と。青年が何を言っているのか分からないと。
だが、分かりたくない、知りたくない。それが少女の本音であり、嘘だった。

けれど、彼はそれで攻める手を止める性質でもなかった。

「なぁ…お前は、俺のモンだろ?もう、俺の婚約者だろ?」

何も言えない少女は唇を親指でなぞる青年の瞳から目が逸らせない。
瞳、心の奥底まで射抜くような視線が逸らすのを許してはくれない。

「独りになろうとすんな…、俺の傍にいろ」

それを理解した少女は既に堕ちているのだ。
自分にはもう、彼しか、愛せる人がいないと。

青年の瞳には、一筋の涙を流している少女が映っていた。


【虚像を愛した罰をやる】


所詮、お伽噺の中は嘘で彩られた物ばかり。
けれどその中で生まれる出来事は全て真実。

「…可哀想な人ですね」
「お前もな」

嘘と真実の狭間で生きている少女と青年。
二人は一生、独りでいることを許されない。




end.