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不確定なカルマート

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 ツナの傍で獄寺を見ていると忘れそうになるけど、獄寺は疑り深い性質をしている。

 ツナ以外の奴はとりあえず警戒する。昔はそこで同時に威嚇もしてた訳だけど、まぁ、流石に最近それはなくなっている。表層的な部分では。
 変わりに笑顔が張り付いたりしてる場合があって、でもそれは警戒しつつ慎重に見極めているだけなので根本的には変わっていなかった。
 相手の考えていることを会話や言動、様々な情報から考察する。他人の思考を理解することなんて早々できることじゃないけど、指針や目的なんかであれば出来ないことではないんだろう。しかもそれがプライベートでなくビジネス面でというなら更にハードルは下がるらしい。
 獄寺のその性質はきっとボンゴレに取っては有益なんだろうとは思う。

 そしてオレはいつも不思議に思うのだ。何で獄寺はその性質をオレにも発揮しないんだろうって。
 もうずいぶん長い時間を一緒に過ごしてて、人としての本質みたいなものは何となく分かってるからというのもあるんだろうけど、それにしてもなァってオレは思うのだ。
 いや、それも正確じゃないな。

 物騒なことが絡んだ時、オレ達はコンビを組むことが多い。少数精鋭で動くのが好ましく、最悪オレ達の身元がバレても構わなくって、実力行使にプラスして情報や物証が欲しい時はほぼオレと獄寺で動く。
 純粋に実力行使の場合は雲雀を一人放り込めばいいし、隠密の時は骸達に頼めばいい。

 二人で行動することに最初獄寺は不満を漏らしてたけど、ツナに何か言われたんだろう、その後はごねることもほとんどなくなった。
 何で分かるかって? 獄寺が素直になるのはツナだけってこともあるけど、オレもツナに言われたことがあるからだ。獄寺君は一人だと無茶ばっかりするから山本よろしく頼むよってな。
 獄寺からもツナからも何か聞いた訳じゃないけど、きっと獄寺はツナから獄寺君と山本になら安心して任せられるよ、山本のことよろしく頼むね、なんて言われちゃったんだろう。
 オレと獄寺はツナに良いように転がされてんな〜とは思うけど、オレも獄寺も気にしないので問題はない。

 そんな訳で、ツナに頼まれてしまった獄寺がオレを蔑ろにすることなんて有り得ないからいつになく協力的で、そうなったオレ達を止められる奴等なんて早々いないのだ。
 そんな時、オレには獄寺の考えてることは何となく分かるし、ちゃんと獄寺もオレしか分からないように伝えてくれる。オレでもそうなんだから、獄寺なんてオレの頭の中全部見えちゃってんじゃねぇのって思ってる。少なくともオレはそう感じている。

 うん、だから獄寺はオレが自分に向ける部分だけを封印してるようにしか見えないんだよな。

 意識的にそうしているなら指摘してやれば済むことだけど、自覚がないとしたら手に負えない。自覚がない場合、そんな指摘をオレがしたらますます負の思考スパイラルに落ちて行くので迂闊なことがオレは言えない。それに獄寺の場合後者である可能性が高いのだ。


 オレの言葉を、行動を、そして何よりも目を見れば答えは一つしかないってすぐに分かるのに。

 何でそんな結論にいっちゃうのかなぁ。





 獄寺はオレと一緒に居たいと思ってくれている。オレも獄寺の隣に居たいしこれから先もずっと並んでいられるって信じている。
 が、獄寺はそうじゃなくて、オレがそのことに気付くのにそう時間はかからなかった。

 どうやら獄寺はオレの気持ち―――― というか、愛情や好意のようなものが永続的に続くということを全般的に信じていないようだった。愛情の認識についてオレと獄寺には物凄い隔たりがあるみたいで、オレの愛情のようなものを認めさせるのも、物凄く物凄く大変だった。
 まぁ、そんな感じでとにかく獄寺は信じられないというより続かなくて当然だと思っているんだなと理解はできた。納得はできないんだけど。
 そのくせ自分がオレに飽きるという選択肢はこれっぽっちもないみたいなので、ますますオレは訳が分からない。

 獄寺はオレが獄寺のことを好きな状態が続くなんてちっとも考えてなくて、でも今みたいな状態が少しでも長く続いたらいいなと思ってるので、少しでも長く続ける為にはどうすればいいかと、獄寺は獄寺なりに考えている、らしい。


 そんな訳でオレは浮気を容認されている。
 いやもうそこで浮気OKにいっちゃう獄寺の思考回路がオレには理解できないんだけど、っていうか理解したくないんだけど、ちゃんと説明してくれた獄寺の言葉を借りれば我慢するよか好きなことしてた方が長続きするだろってことなんだそうだ。

 獄寺がオレのことをどう考えてるのか知らないが、オレは本命には一途なタイプなのだ。それに遊びの面倒臭さも虚しさみたいなものも十分知っている。
 だいたい浮気OKと言っていても、されたら嫌だろうし獄寺が傷つくことも分かってるし、オレは率先して獄寺を傷つけたいとは思わない。
 そんなオレが浮気なんてする訳がないってことを獄寺はもっと知るべきだ。

 だからオレはどうせするつもりもないしってことでこの件に関しては適当に流していた訳なんだけど、獄寺はそうじゃなかったらしい。





 その日は久しぶりに二人とも早く仕事が終わって、オレは獄寺の部屋のソファに座って雑誌をパラパラと捲ってたんだけど、聞こえてくる水音の方が気になって中身は半分も頭に入って来ていなかった。獄寺が嫌がっても一緒に入れば良かったかなぁなんて思ったけど、少しの間ならこうして待ってるのも嫌いじゃない。オレだっていつまでも我慢できない子供って訳じゃないのだ。

 シャワーの音が止まって、しばらくするとバスローブを纏った獄寺が無造作に髪をタオルで拭いながらリビングへと戻って来た。
 オレは飲んでた缶ビールを掲げて、視線だけで飲む? って聞いてみると獄寺が小さく頷いたのでテーブルに乗せてあったグラスに半分程注いでやった。獄寺はサンキューと言うと、まだ十分冷えているビールを美味そうに呷る。
 少し反らされてオレに見せつけるように動く喉を見ていたら、そういえばとまるで天気の話でもするように獄寺が言った。
「なぁ、お前浮気してないのか?」
「へ?」
 獄寺の言葉にオレが間抜けな声を出してしまったのは仕方ないと思う。普通、付き合ってる相手が浮気してるんじゃないかって問い詰める時は、まさか隠れて浮気してんじゃねぇだろうなと詰め寄る感じだと思うんだけど。間違っても何で浮気してないの? って感じに言うもんじゃないってオレは思うぞ獄寺。
「オレとこんな感じになってそれなりに経つと思うんだけど、お前浮気してる感じしないから。あ、隠れてしてんのか?」
「いや……してないから、そんな感じ出てなくて、当然だと思うけど……」
「なんで?」
 オレ別にいいって言ったのに、なんて本当に不思議そうに言うもんだからオレは言葉を失うしかない。
「オレも他の奴と寝た方が気楽か?」
 追い討ちとばかりにかけられた台詞にオレは言葉を失うというよりも頭痛と目眩がする思いだった。
作品名:不確定なカルマート 作家名:高梨チナ