不確定なカルマート
獄寺が傍で立ってるせいでオレが見上げるようにしてるんだけど、馬鹿みたいに口が開いて見下ろしてる獄寺からはさぞや馬鹿っぽく見えるんだろうなとぼんやり思う。そして、今更こんなことぐらいで獄寺がオレに愛想を尽かしたりしないことぐらい、オレは分かってるのだ。なのに、獄寺はちっともオレのことが分かってないらしい。
膝に乗せてた雑誌を横に置いて、バスローブに手を伸ばして獄寺を引き寄せるとギュッと腕に力を入れて抱き込んだ。バスローブのタオル地に吸収されてくぐもった声音で獄寺に行儀悪く質問する。
「獄寺……オレ以外の奴と寝たいの?」
「ん? いや、そういう訳じゃねぇけど」
腰にオレを纏わりつかせたまま、獄寺は平坦に答えた。獄寺の質問をスルーして質問で返したけど、特に不愉快という風ではない。むしろオレが憮然とした表情をしてるのを察して頭を撫でてくる。
だけどこれはオレが不機嫌だって分かるからで、そこまでは簡単に察するくせに不機嫌の理由までは分からないんだから始末におえない。
「オレは獄寺にはオレだけでいて欲しいし、オレだって獄寺だけでいたいんだけど」
そっと覗き見た獄寺は想像通り、困ったように笑っていた。
そんな様子を見て、オレは獄寺に顔を摺り寄せてこっそりと小さく溜め息をつく。
「いつになったら獄寺にオレの気持ちが届くのかなァってオレはたまに思うよ」
「そんなこと、」
オレのことが信じられないんじゃなくて、獄寺は自分のことが信じられないんだよな。
何だかんだで獄寺はオレの腕の中だけに収まってくれるってオレは分かってるから良いんだけど、獄寺はどうなんだろうと今更ながらにそう思う。
嫌がる獄寺の手を引いて強引に始めたのはオレなのに、未だに獄寺だけが満たされないでいる。傲慢なオレは獄寺と幸せを共有できると信じていたから手を引いたのに、獄寺はどんどん幸せから遠ざかっているような気がしてしょうがない。
獄寺はこうなることが分かっていたから首を縦に振らなかったんだろうか。もし、そうだとしたらオレは物凄く最低だけど、そんなオレに合わせてくれる獄寺の愛情って実は物凄いんじゃないだろうか。
オレはこんなに獄寺のことばっかり考えてるのに、獄寺は未だにオレに片思いをしてるみたいだった。それも壮絶に。
獄寺に渡せる言葉がなくなって、オレは獄寺に回した腕に力を込める。オレが持ってる手札の種類なんてそう多くない。その中で獄寺に通用しそうな物なんてそれこそ高が知れているのだ。
2009.05.03