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色褪せた手紙

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最後にTとだけイニシャルされた手紙を見て、彼──シュレは、眉を潜めた。脳裏には鮮やかな昔の記憶が広がっていく。それと共に、手紙の内容を砕けば砕くほど彼の胸のうちにはざわめきが広がっていった。
テッドは、手紙になんと書いていただろう。友達ができたとあった。幸せになったとも書いてあった。それはいい。素晴らしいことだ。だが、また何故それを手紙で寄越したのだろう。幸せになれと言ったのは確かにシュレで、それはシュレ自身の望みを断ち切る事でもあった。それを知ってか知らずか、テッドはほんのたまに、数十年に一回くらい、ぽつりと姿を見せてはシュレを群島の外へと誘おうとした。だが二人で行くわけにはいかない。それには、断ち切った望みが痛みすぎた。だから、シュレは一人でこうして海を眺めて100年を過ごした。
手紙には、次の継承者を知っているかとあった。知るはずが無い。シュレが見るのは過去の人間ばかりで、最近はもう紋章に残る影を斬りきってしまったのだろう、もう殆ど見ない。そんなことがあったな、という程度の経験だ。だが、テッドは知っているのだろうか。今まで殆ど紋章の話題には触れなかったテッドが、何をシュレと話したいと言うのだろうか。そして、テッドが居ると言った場所。
この手紙が出されたのは何時なのだろう。あまりにも時間がかかりすぎているのではないか。赤月帝国は、群島が接する北の大陸南部にある」大国である。昔はクールークを吸収して、海岸線にまでその国土を広げかかった国だ。むろんシュレがオベル王宮伝いにその名前や動向を知らぬはずはなく、だからこそ──赤月帝国は、一年ほど前、内乱で倒れたらしいというのに。
今現在、世界の地図上にはテッドがいると書いた国はない。
手紙は、おそらく内乱に巻き込まれて届くのが遅れたのだろう。戦が起これば、商業活動は著しく停滞する。国自体を迂回することも侭あるのだ。ほんとうに、手紙が届いたのは奇跡なのかもしれなかった。

シュレは、手紙を置くと陽の傾いた海を見詰めた。海はオベルの北側にあたり、この遥か向こうに北大陸が広がる。旧赤月領はその内地だ。そこに彼は居るはずだった──が、しかし。
今なら腹を割って話せると書いてくれたことは嬉しかった。幸せになったらしい彼が、群島へ来るのはだいぶ先になるのかもしれない。待つのはいつも通りだから構わないとは思うのだが、戦を経たかの国はどうなっているのだろう。そしてテッドは。彼の幸せは。
シュレは手紙を置いた。自分は、いつからこうして案じるだけの人間になったのだろうと思った。仲間が各島に居た頃はできるだけその力になるように動いていたのに、すっかり篭もり癖がついてしまった。150年が経ったいま、もう残っているのはテッドくらいだというのに。
何かしら、シュレの身体の中で得体の知れない影が滲み出る。長生きしろよ、という最後の言葉が、頭にこびりついていた。
作品名:色褪せた手紙 作家名:ゆきおみ